研究課題
本研究は、幹細胞の機能を亢進する分子機序としてのNotchシグナル/解糖系経路制御機構を解明するとともに、そのメカニズムを応用した新規間葉系幹細胞を創製することを目的とする。当該年度は、1. 前年度に同定した低酸素培養hADMPCに導入されているNotchシグナルに制御された遺伝子のうち、解糖系にかかわる遺伝子の細胞内動態および代謝経路への作用を解析した。その結果、嫌気的解糖と酸化的リン酸化のバランスを制御する遺伝子および分子群が低酸素環境に応じて統合制御されており、全体的に嫌気的解糖系へのシフトを誘導していることを明らかにした。また、2. 上述1に記載した低酸素Notchシグナルの下流で変動する遺伝子群について、hADMPCの増殖能・分化能亢進への影響について解析した。その結果、過剰発現系や遺伝子発現抑制系等の機能解析により、その遺伝子群のうちいくつかに於いては、増殖能のみならず分化能をに多大な影響を及ぼすことを見出した。これらの結果については、本報告を記載している現在、論文に投稿中である。また、Notchシグナルの下流でこれら遺伝子や分子群の発現を制御するシグナル機構を新たに見出し、現在このシグナル経路の機能的評価解析を実施しており最終年度に向け、そのメカニズムの詳細な解析を進めている。上述のように、Notchシグナルが制御するエネルギー代謝と幹細胞維持機構との関連性を明らかにしようとする本研究により、当該年度に達成した脂肪由来間葉系幹細胞の増殖能・分化能亢進機序の一端を明らかにしたことは、未分化性やある程度の多分化能を有する脂肪由来間葉系幹細胞亜集団の同定の足がかりとなり、表面マーカー・細胞外基質・代謝経路阻害剤などの方法による濃縮・分離技術の創製へと繋がる可能性が見いだせる。これらの知見は、再生医療・産業分野に大きく貢献できるものと確信している。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、脂肪由来間葉系幹細胞の低酸素培養下における ①Notchシグナルで制御される遺伝子の同定と未分化性維持・多分化性に関わるシグナル機構の解析、②低酸素環境下における新規解糖系機構の探索、③Notchシグナル系と新規解糖系シグナルクロストーク機構を応用した更に高品質なヒト脂肪由来間葉系幹細胞創製を目的とし、標的細胞・組織に高い指向性をもつオーダーメード再生医療用幹細胞資材提供を目指している。当該年度では、上述①および②の研究目的の達成のため、(1) 遺伝子解析結果とあわせたHx-hADMPCでの代謝経路を同定のため、厳格な機能性解析を実施し、糖代謝に関わる酵素関連遺伝子や代謝制御遺伝子群の関与を同定したこと、(2) 左記の(1)の遺伝子によるHADMPCの増殖能・分化能亢進への関与とその機序についての細胞生物学的解析を実施し、Notchシグナルが制御する酸素環境下におけるHADMPCの増殖能・分化能の関与を見出したことなど、研究計画に準拠した実験を実施し、かつ的確にデータを集積・分析できたことで十分な成果を得られたと結論づけられる。
当該年度の研究成果を受け、今後も研究計画に則し、1. 遺伝子レベル、タンパク質レベルでの候補遺伝子のさらなる詳細な検証【27年度以降】、2. 遺伝子解析結果とあわせたHx-hADMPCでの代謝経路を同定・特定【平成27年度以降】、3. 変動遺伝子による、増殖能・分化能亢進への関与とその詳細な機序の解明【平成27年度以降】、ならびに4. Hx-hADMPCより増殖能・分化能の高い脂肪由来新規幹細胞の分離・創製および心筋や軟骨分化特異的な幹細胞創製への挑戦【平成27年度以降】を実施する。これにより、新たな分子メカニズムや幹細胞代謝ダイナミズムを同定することで、最良の再生医療用細胞資材の提供につながる基盤技術の開発を達成し、再生医療分野に大きく貢献したいと考えている。
当該年度に予定していた論文投稿が遅延し、次年度へと繰り越しになってしまった。また、当該年度は分子生物学的な実験が多く、予定していた高額の培養器具、培養試薬への支出が抑えられた。また、次年度へマウス実験や高価な代謝解析を執行する可能性がが予想されたため。
次年度研究計画にあわせて、的確かつ適正に予算を活用する。代謝プロファイルに基づいた機能解析やシグナル解析を中心に、新規の脂肪由来間葉系幹細胞の樹立も行う。これに伴い、マウス実験や高価なメタボローム解析等のオーム解析を実施する可能性が予想され、場合によっては機器レンタルを介した高度な細胞解析の実施も視野に入れている。また、国内外への成果発表も精力的に展開する予定であり、論文の投稿もあわせ研究成果も累積出来るよう努めたい。
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Biochem Biophys Res Commun.
巻: in press ページ: in press
10.1016/j.bbrc.2016.03.064.
日本香粧品学会誌
巻: 39 ページ: 192-195