細胞組織加工製品の製造工程では,感染性因子,特にウイルスの混入の可能性を常に孕んでいる.しかし製品は細胞を含んでいるため,バイオ医薬品等で行なわれるウイルスの不活化や除去が極めて難しい.そのためウイルス汚染のない安全な生物由来原料を使うことによって安全性を担保することが望ましい.本研究では重要な生物由来原料のひとつであるウシ胎児血清を次世代シークエンサーで調べたところ,調べた6ロットのすべてで,ウシ由来のウイルス核酸が含まれていることが分かった.またiPS細胞等でフィーダー細胞として使われるSNL76/7細胞からは内在性レトロウイルス様粒子が産生されていることをTEMで確認できた.これらのウイルスは感染性はないものの外来性のレトトロウイルスと組換えを起こしてヒト細胞に感染性をもつウイルスが出現する可能性も否定できない.本実験によって,生物由来原料であるフィーダー細胞や培地に含まれる血清等からのウイルスの持ち込みの可能性があることが示唆された.細胞組織加工製品は,その多くはヒトの細胞を原料とし,製造規模はバイオ医薬品等を比べて小さく,初期化や分化等の特殊な培養工程,多様な原材料の利用,製造後保存が難しい,といった特徴をもつ製品である.バイオ医薬品の製造における汚染事例を考え合わせると,生物由来原料を介してウイルスが混入する可能性が否定できないことが本研究によって裏付けられたといえる.安全性確保には,生物由来原料の管理が重要であり,次世代シークエンサー等の網羅的なウイルス検出が有用であると結論された..
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