研究課題/領域番号 |
26502001
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
朴 賢淑 岩手大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (10466518)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 介護の国際化 / 異文化間介護 / シドニー |
研究実績の概要 |
近年、日本政府は介護現場におけるその担い手不足を深刻に受け止め、外国人労働力へ目を向けるようになった。こうした状況を鑑み、2008年から外国人介護・看護候補者が、インドネシア、フィリピンからEPA(二国間経済連携協定)に基づき介護の担い手として期待されていた。さらに、介護・看護の現場で活躍するためには、言語習得をはじめ日本文化への適応が必要とされ、しかも長い年月がかかる。しかし、近年、EPA制度を利用して介護資格が取れたとしても日本での職場文化になれず、帰国してしまうケースも見られる。したがって、EPA制度が日本の介護の現場に定着するまではかなりの時間を要する。 そこで本研究では日本より先に異文化間介護問題に取り組んでいるシドニーの事例から異文化間の介護の在り方を探ることとした。 今回注目した韓国系移民者による介護事業への展開は、州政府がカバーし切れない領域まで移民者への介護支援を行っていることから、多文化社会における福祉事業の在り方を提示するものとして考えられる。その理由として、①自立した外国人市民が当事者視点から介護問題に取り組んでいること、②母国出身者によるケアが行われていることにより移民1世代の言語・食文化・生活習慣を配慮したケアが重視されているからである。今回の調査をとおして異文化間ケアを行う際に職員に求められている力量とは他者の文化を理解し援助する際に援助を受ける側に生かされていること、さらに援助する側に求められている異文化視点からのキャリア支援プログラムを積極的に取り入れることが求められていた。一方、日本で外国人介護士による援助は近年始まったばかりであるが、前述の視点を取り入れた介護士養成はEPAが抱えている課題を解決する糸口になると同時にニューカマーの外国人を介護現場でその担い手としての可能性を探る研究として位置付けたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近年、介護施設における不祥事の問題やEPA制度による外国人介護士の受け入れが停滞していることから外国人介護士をめぐる研究が多文化視点から再度確認する必要があった。そこで異文化間介護の在り方を移民社会が進んでいる地域を対象にすることになった。 よって本研究では、異文化間介護が進んでいる海外の地域を対象に長期間滞在をしながら介護現場の参与観察や職業訓練プログラムへの参加を試みた。しかし先方との日程調整が短期間にとどまっている。また、事業者の要望により介護現場の公開が限られた場面であったことから充分なデータを得ることができず限られた情報にとどまっている。したがって27年度は調査地におけるネットワーク構築や福祉施設で限られた時間で参与観察になっている。よって、次年度には2年間に渡って構築した人的ネットワークに基づき研究をまとめていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
日本におけるEPA制度が少子高齢化に伴う介護現場における人手不足を解消するまでには至っていない。彼(女)らが日本の介護福祉士国家試験に合格したとしても合格者全員が日本に残るとはいい硬い。実際、合格者のなかには帰国した人も見られる。帰国理由として、①介護現場において文化(言語、生活、食事など)のギャップが生じていること、②本国に残した家族への思いと寂しさ、③日本で取得した資格が本国では高く評価され、高い給料が得られるなど、決してEPA制度が日本の介護現場で十分生かされているとは言い切れない。 現在、EPA制度による外国人介護士の養成がインドネシアおよびフィリピンのみ対象にしているが、今後EPAの対象国をさらに拡大する必要があると思われる。本研究では、海外からの留学生や結婚移住女性を視野に入れた福祉政策への転換がいかに介護現場において労働力確保に有効であるかを確認しながら職業訓練のための「場づくり」を提言したい。 前述のように、今後日本政府がEPA制度の有効活用や来日外国人を視野に入れた労働力の確保を目指すのであれば、福祉領域における「多文化共生」の視点から検討しなければならない。また、介護現場を再確認とともに研究を積みか重ねなければならない。したがって本研究では、昨年に続き、移民者が多く居住するシドニーの福祉施設(主に韓国人および中国人を対象にしている施設)での職員研修プログラムおよび高齢者支援プログラムを対象に多文化共生の視点から介護現場の分析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査において通訳者が不要であったことまた、現地調査地の手配を申請者が直接行ったことによる。さらに、当初、長期滞在を予定していたが、先方との日程調整がうまくできず、短期滞在にとどまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度には、長期滞在が困難な場合は短期滞在を通した調査を計画している。短期滞在になった場合は、2回以上オーストラリア調査を行う予定である。 (1)飛行機:15万円(シドニー ⇔ 日本)、(2)宿泊代:10万円 (7泊) (3)通訳代:10万円(英語 ⇔日本語)、(4)謝礼金:5万円
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