本研究は、漢語によるキリスト教解釈と宣教を手掛かりに、グローバル中国における政治・文化・社会に関する改革運動を考察し、そこからグローバル中国の新しい文化史を構築することを目標とするものであった。研究の研究最終年度に当たる本年の活動は、そうした文化史の構築の有効性を内外の研究者とともに検証する国際シンポジウムを中心に展開された。 この国際シンポジウム(漢語神学と東アジア・国際研討会)は2017年2月24日に、神戸大学大学院人文学研究科にて挙行された。海外からは曾慶豹(台湾・輔仁大学)、林子淳(香港・漢語基督教文化研究所)、黄剣波(中国・華東師範大学)の3氏が参加した。学術報告のテーマは、漢語神学の「古典学」をめぐる文化と政治、教会支配を伴わない宣教活動における自己アイデンティティー、中国大陸における家庭教会の社会学的考察、東アジアにおける政治神学の発展過程などである。 研究代表者は、別に、「中国社会理論は何を前景化したのか?ーー市民社会と公共社会をめぐる論争二十五年史」(『現代中国と市民社会ーー普遍的《近代》の可能性』所収)を執筆し、漢語神学が中国における公共性の諸問題を前景化した意味について、本研究のまとめに当たる議論を行った。 3年間の研究によって、漢語神学が切り開いた言語文化の複数性や対抗的な共同性を明らかにすることができ、漢語神学という切り口からグローバル中国の文化史を展望することの意義が改めて確認された。国際シンポジウムなどを通じて形成された学術ネットワークを今後さらに拡大し、グローバル中国に関する新しい社会理論を構想してゆくことが求められる。
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