研究課題/領域番号 |
26503008
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
福井 令恵 九州大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (50724035)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 紛争後社会 / 共同体意識 / 視覚イメージ / 歴史 / 教育 / 壁画 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、北アイルランドの紛争後社会の共同体意識がどのようにつくりだされるのか、視覚イメージから明らかにすることである。北アイルランドの地域コミュニティに遍在する視覚イメージと、その流通に注目し、共同体の内側/外側という境界線が、和平合意後の現在、どのように引かれ(続け)るのかという点を解き明かす。具体的には、イメージがどのように受け入れられ成長し、どの範囲(都市空間・学校教育)に流通するのかを明らかにする。 平成27年度は、1.前年度から継続して初等・中等教育での学校教材(歴史関連科目)の蒐集を行った。平成26年度の調査で「教科書」は各学校や教師の裁量が大きいことが明らかになったが、その後の関係者への聞き取り調査により、公定の教科書は存在せず、各学校で複数の学習用図書等を使用するケースが少なくないこと、そのため、学校の「教科書」の使用状況について、詳細の把握はやや困難であることが明らかになった。そこで、前年度の蒐集方法と並行して、歴史教育関連の研究者や教員養成学校から得た情報をもとに、「教科書」の枠組みをやや広げ、資料収集を行った。現在これらの資料の分析を進めている。 2.歴史教育の研究・教育拠点であるクィーンズ大学教育学部の歴史教育を専門とする研究者のほか、成人教育にかかわる関係者に対して聞き取りを実施することができた。さらにアイルランド系の教育養成大学へ訪問調査を行い、小学校での教師経験もある歴史科教員への聞き取り調査を行った。こうした聞き取りから、学校教育で学ぶ内容を把握するために、政府の策定したナショナル・カリキュラムと全国試験について調査することが有効であると判断でき、現在分析を進めている。 3.地域メディアである壁画の題材の変化について、ベルファストの各地域を調査・記録し、データの更新を行った。
調査から得られた知見をもとに、学会で口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度はおもに以下の3点を実施した。 1.教材の蒐集については前年度に引き続き実施したが、宗教と階級という二つのカテゴリー別に学校の使用教科書を特定し分析するという当初の研究方法は、多少変更が必要になった。しかし、当該地域で使用されていると考えられる学習用図書等の蒐集は、現地の関係者への協力を得て、かなり網羅的なものになったことが見込まれる。またカリキュラムと全国試験の調査を行い、学習用図書等の分析と重ね合わせることで、北アイルランドの歴史教育のあり方(どの段階で、どの出来事をどのように学ぶのか)について、おおよその傾向の推定が可能である。平成28年度は学習用図書に掲載されている挿絵・写真の分析を行うが、そのための材料がそろったと考えている。 2.歴史教育にかかわる関係者への聞き取りを行った。特に北アイルランドの歴史教育の第一人者である研究者と面談し、さらにコミュニティで論争的な歴史的出来事を取り上げ、議論する成人教育のプロジェクトを進める研究者を紹介してもらい、意見交換を行った。今後も継続的に意見交換を行う予定であり、貴重な人脈作りができたと考えている。こうした点は今後の研究の進展に非常に有益であると感じている。 3.壁画の記録について、データ更新を行った。調査地域も、予定より広範囲をカバーできた。プロテスタント系住民の居住地区では特に大きな変化が認められた。また、壁画に対する住民の認識に関して、複数の地域の関係者に話を聞くことができた。
調査の結果を、日本社会分析学会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
・北アイルランドの初等・中等教育における歴史科目関連の学習用図書は、ほぼ網羅的に蒐集できたと考えているが、イングランドやアイルランド共和国の資料を入手し、比較・対照することで、北アイルランドの歴史教育の特徴をより明確化できるのではないかと考えている。 ・壁画のイメージと学校で使用される図書等に掲載されている写真や挿絵などのイメージの関連性について、考察を深めたい。 ・前回の調査で、これまでアクセスできなかった住民グループにも、壁画のイメージに対する聞き取り調査の可能性が広がったので、状況が許すようであれば、聞き取りを実施したい。 ・平成28年度は、本研究の最終年度になるため、学会・研究会等で口頭発表し、その後論文の投稿を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は2度の海外調査を行ったが、調査時期が当初の予定から変更になり、旅費が低廉となった。そのため次年度繰越金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度が本研究の最終年度になる。1回の海外調査の旅費および国内の研究会の旅費を支出したい。また、論文執筆・投稿・学会発表などの成果公表に関わる経費も支出予定である。
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