最終年度となる2016年度は、研究課題をさらに発展させるために国際調査を行い、アジア太平洋戦争期に日本の占領地となったシンガポールにおいて、博物館展示や戦跡に関する現地調査を実施した。シンガポール国立博物館、アジア文明博物館、日本占領時期死難人民記念碑等を対象に、日本の占領や虐殺等の「負の記憶」がどのように表象・展示されているかを明らかにすることを目的に実施した。特にシンガポール国立博物館では、日本占領期に「昭南博物館」と改称され、日本人の手によって運営が担われていた時期の展示について詳細なデータを得ることができた。これにより、イギリスの植民地から日本の占領を経てマレーシアからの分離に至るシンガポールの歴史の中で、日本占領期における「負の記憶」が今もなお影を投げかけており、展示内容にも大きな影響を与えていることが明らかになった。あわせて、日本占領期の戦跡や慰霊碑等についても調査を行った。とりわけ1942年のシンガポール架橋粛清事件(「シンガポール大検証」)における犠牲者をはじめとした日本占領期の戦没者追悼を目的に1967年に建設された「日本占領時期死難人民記念碑(血債の塔)」のように、戦争責任の問題を抱えながら現在においても政治の争点とされている実態を具体的に把握することができた。これらの調査の成果は、筆者の勤務する大学において公開授業として報告の機会を設け、あわせて「シンガポール国立博物館における戦争の展示と『昭南博物館』の記憶」として発表した。
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