研究課題/領域番号 |
26503013
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
石原 俊 明治学院大学, 社会学部, 准教授 (00419251)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 硫黄島 / 小笠原 / 歴史社会学 / 日本帝国 / 南進 / 南洋 / プランテーション / 強制疎開 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、硫黄諸島(火山列島)に居住していた人びとの「近代経験」を、主に歴史社会学的な方法論によって、実証的に明らかにすることにある。硫黄諸島(かつての有人島は硫黄島と北硫黄島)は、近代日本における初期の「南洋」植民地のひとつとなりプランテーション型入植地が形成されたが、アジア太平洋戦争で日米戦の最前線に置かれたために住民が強制疎開または軍務動員の対象となり、住民たちは敗戦後も現在まで故郷喪失・離散(ディアスポラ)状態に置かれてきた。本研究は、こうした境遇を強いられてきた硫黄諸島民がいかなる「近代」をくぐり抜けてきたのかを、文献資料収集とインタビュー調査に基づき、同諸島と類似の状態に置かれた国内外の島嶼地域の歴史経験とも比較しながら検討していくものである。 本年度は、硫黄諸島の入植が開始されてから、同諸島の急速な軍事化が進行した1940年代初頭までを主たる調査対象とした。 硫黄諸島は19世紀末以降、大東諸島などとともに、小笠原諸島に続く日本帝国の初期「南洋」植民地のひとつとなった。硫黄諸島にはまもなく糖業を軸とする農業経済が定着し、1920年代後半に国際市場糖価が下落した後は、コカや蔬菜類など生産物の多角化が進んでいった。 当時の硫黄諸島の入植者の大多数は、開発を主導した拓殖会社またはオーナー一族の小作人(兼従業員)であり、しかも拓殖会社の系列資本に島外からの生活必需品の流通を掌握され、恣意的な債務状態に置かれていた。たほうでかれらは、小作人や従業員としての労働とは別に、採集・漁業・農業・畜産にわたるインフォーマルな生産活動によって食料を自給できていた。 本年度は以上のような状況について、文献資料調査と存命者へのインタビュー調査により詳細に検討をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
硫黄諸島旧島民は高齢化が著しく、知己を得ていた旧島民のうち、本年度も数名が他界され、また数名がインタビューが不可能な身体的状況になられたことが判明した。そのためインタビュー対象者は当初計画通りには拡がらなかった。 反面で本年度は、次年度以降に向けた調査の準備に関しては、当初計画以上に進展したといえる。第一に小笠原村との調整を得て、次年度に同村が実施する硫黄島旧島民訪島事業に参加し、民間人の上陸が原則として禁止されている硫黄島現地におもむく準備が整った。この現地訪問の過程で、多くの硫黄島旧島民および関係者からヒアリングをおこなうことが可能となった。第二に、「全国硫黄島旧島民の会」など旧島民の同郷団体との本格的な協力関係が生まれ、次年度以降のインタビュー対象者の拡大に見通しが立った。 また、本年度は硫黄諸島と小笠原諸島の島民が地上戦遂行のために強制疎開させられてから70周年にあたるため、マスコミからの取材が相次いだ。特に『東京新聞』の連載「伝言:あの日から70年」の一環として特集が組まれた「激戦の島 帰れぬ遺骨―硫黄島 1万1000人分残る」(2015年2月15日)には、「日米合作の『捨て石』:石原俊さん 明治学院大学准教授」と題する長文のコメントが掲載された。この記事は本研究課題の核心的な内容にかかわっており、いわゆるアウトリーチについても当初計画以上に達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、明治学院大学の特別研究休暇制度の適用を受けることとなった。 次年度中、日本国内に滞在している前期(春学期)には、当初研究計画の遂行に加え、小笠原村と防衛省の特別許可を得て、小笠原村が実施する硫黄島旧島民訪島事業に参加し、硫黄島現地におもむく予定である。この現地訪問の過程で、多くの硫黄島旧島民および関係者からヒアリングをおこなうことができそうである。 次年度の後期(秋学期)は明治学院大学の経費による在外研究を予定しており、本研究課題にかかるインタビュー調査は一時中断することになるが、在外期間中も「全国硫黄島旧島民の会」が本年度内に刊行を予定している硫黄島旧島民の聞き書き集の監修に携わるなど、本研究課題にかかわる論文や研究ノートの執筆は継続したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
文字起こし業務委託などに当初予想以上の費用が発生したため、次年度予定額から500千円前倒し請求をおこなったが、予定していたインタビュー調査の一部が、調査対象者の事情により次年度に延期になったため、165千円程度の次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のとおり、次年度使用額の発生は、本年度に予定していたインタビュー調査の一部が、調査対象者の事情により次年度に延期になったためであり、次年度において使用を予定している。
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