本年度は勤務先の通常業務に復帰したため、サバティカルであった前年度ほど本研究課題に集中する時間は得られなかったが、インタビュー調査とその成果の発信に関して特筆すべき成果をあげた。まず地上戦に動員され生還した硫黄島民10名のうち、現在唯一の生存者となっている須藤章氏に2度目のインタビューを実施することができた。このインタビューについては、2015年度実施のインタビューの成果を含め、「地上戦を生き延びた硫黄島民――唯一の証言者・須藤章さんのライフヒストリー」と題して『社会文学』(45号)に寄稿した。また栃木県那須町の硫黄島民の戦後入植地を訪問し、当事者の自宅に宿泊させていただきながら、当事者・関係者数名にインタビューを実施した。 「計画最終年度前年度申請」によって応募した新たな研究課題が採択されたため、本研究課題はさしあたり本年度で終了となるが、本年度は本研究課題全体の成果の発信に関しても、かなりの成果をあげることができた。まず単著『群島と大学――冷戦ガラパゴスを超えて』(共和国刊)を刊行し、硫黄列島民の社会史的経験を、東アジア/北西太平洋世界の近代のなかに位置づける作業をおこなった。また青山学院大学と琉球大学に招請され、本研究課題全体の成果について講演をおこなったほか、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のテラサキ日本研究センターのシンポジウムでも研究報告を実施した。次年度2017年5月には、歴史学研究会大会に招聘され、近代史部会にて本研究課題の成果総体に関する報告をおこなうことが決まっている。さらに2017年度から18年度にかけて、本研究成果に基づく一般書および学術書をまとめる予定である。
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