研究課題/領域番号 |
26503017
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研究機関 | 大阪観光大学 |
研究代表者 |
廣岡 浄進 大阪観光大学, 観光学部, 准教授 (30548350)
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研究分担者 |
友常 勉 東京外国語大学, 国際日本研究センター, 准教授 (20513261)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 部落差別 / サバルタン / アイデンティティ / 新左翼 / 国際研究者交流 / アメリカ:インド / アメリカ黒人運動 / ダリト(不可触民) |
研究実績の概要 |
本研究は、戦後部落解放運動の差別糾弾闘争を、糾弾の主体とその形成とをめぐる政治の問題として再考しようとする視点から、歴史経験としてのその可能性をすくいだし、同時代史に位置づけようとするプロジェクトである。これはすぐれて戦後思想史、かつまた社会運動史の課題であるが、日本共産党をふくむ左翼および新左翼党派の動向とも密接に絡みあうことなどから、その叙述には困難が予想された。そこで、当該期日本の政治情況を閉じたものと見なさず、同時代の海外の反差別闘争を参照することで、世界的なラディカリズムの共時性を解明するという比較思想史の方法を採用した。 4か年計画の2年目である2015年度は、国内調査を続行するとともに、海外調査に着手した。それらの進捗状況については次項で詳述するが、申請計画よりも研究対象とする時期をさかのぼって解明を進めている。これは、とくにききとりを通じて明らかになったことだが、問題をめぐる構図の形成、そこにいたる経過や論点などについての議論が必ずしも尽くされているわけではなく、それらの整理が必要だと考えたからである。また、当該期に並進する文化運動などをも視野におさめることで、より立体的な把握を可能にした。 このほか、2016年度に予定しているインド調査に先だって、研究代表者の広岡は、国内の南インド研究者の協力を得て、解放出版社の月刊誌『部落解放』2016年3月号責任編集として、特集「被差別カーストの苦悩と挑戦」を組んだ。執筆者は中川加奈子、舟橋健太、篠田隆(掲載順)であり、インドとネパールでカーストによる差別を是正するためにとられている留保制度の到達点と課題とを明らかにするとともに、その最先端における留保枠からの離脱の動きなどをとりあげた。今後の比較研究への布石となるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内調査は、部落解放運動の関係者からの聞き取りを重ねるとともに、文献史料の収集につとめた。本研究に関わるまとまった文献史料は一般社団法人部落解放・人権研究所の図書資料室の所蔵資料が最も期待できるが、同研究所の移転後、大阪府・市の補助金打ち切りもあいまって、資料室の再開の目途が立たない環境にある。このため、京都部落問題研究資料センターや大阪産業労働資料館(エル・ライブラリー)などでの史料調査をおこなうとともに、ききとり対象者をはじめとする個人などからの史料提供をうけるなどした。 海外調査は、計画に従って、アメリカ西海岸ロサンゼルスにて現地調査を実施した。研究分担者の友常勉と旧知の日系人活動家たちから、生い立ちにそくして、労働運動や反差別闘争に入っていった経緯などを聞きとったほか、リドレス(第二次世界大戦中の日系人強制収容にたいする補償)にかかわる公的な記憶の場である全米日系人博物館やカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アジア図書館を訪問して文献調査などをおこなった。 なお、今回のロサンゼルス調査を通じて、新たな論点として、日系移民において部落出身者の職縁による紐帯の維持が示唆された。日系人運動の伏流として水平運動がありえたとまでただちに見通せる確証ではないが、出稼ぎ移民の経験が戦前の水平運動や戦後の部落解放運動になんらかの影響を与えた可能性も指摘されており、その逆の流れも想定しうるだろう。この点を解明するためには、基礎的な事実関係を確認する必要があり、移民の送り出しにかかわる研究蓄積をも参照する必要がある。とはいえ戦前戦後を通じての被差別部落からの海外移民の実態解明は進んでおらず、本研究の当初計画にはなかったものの、追加調査のための渡航の準備をしている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は4か年計画であり、あと2年をのこしている。上述のとおり、ひきつづき国内外での調査を深めつつ、成果発表へと進めていく。国内調査では、幸いにして、多くの関係者が好意的にききとり調査に協力してくださり、史料提供の申し出もいただいている。このほかに、狭山事件などの現地調査も考えている。今後はそれらの内容を吟味しながら、ききとりの追加などを通じて、論点の解明と総合とを視野に入れていく必要があるだろう。 海外調査は、さしあたり2016年度については計画通り、インド調査をおこなう予定である。ダリト運動の現況などについて、研究分担者の友常勉と交流のある現地の大学教員の協力を得ながら、ききとり調査などをおこなう。ひとつの論点は、その名称もアメリカ黒人運動のブラック・パンサー党の思想的継承を示しているダリト・パンサーの歴史経験である。かれらがいわゆる不可触民(行政的には、留保制度の下での指定カースト)の自/他称としてのダリトという呼称を定着させたのだが、その思想史および運動史である。また、留保政策の下で指定カーストの情況変化が起きていることは研究代表者の広岡が組織した上述の雑誌『部落解放』特集でも主題化しているが、その変容とダリト運動との関係も検討すべきであろう。これらの検討を通じて、部落問題との比較にあたっての参照軸を確認したい。 本研究のメンバーが関係する、あるいは問題意識の重なる他の共同研究も同時進行している。相互乗り入れで聞き取りなどの調査を実施することもあるが、そうした連携を強化し、多面的な検討を確保する。近現代部落史研究でもまた、戦後史への関心が高まりつつあるので、相乗効果をめざす。 研究時間のエフォートが引き続き当面する課題であるが、共同調査を確保して、それらの機会などを通じて進捗状況の共有を図り、本研究の推進につとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定外の研究出張など不時の支出に備えるため、若干額を留保したもの。 なお、年度末の研究出張について、次年度の会計で処理することにしたものがある。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は海外調査をアメリカ西海岸のロサンゼルスにて実施したが、その結果、さらにサンフランシスコへの現地調査を検討することとなった。これは研究計画の申請時には予定していなかったが、その費用に充てることなどを考えている。
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