本研究は、不動産価格がそのファンダメンタルズからかい離して社会的な動学によって決定されることを実証するために実施した。経済主体は、経済のファンダメンタルズについて不均一な信念を持っている。ある主体はファンダメンタルズが改善するだろうと信じているが他の主体はそうでない。こうした信念の違いに基づいて市場の参加者を楽観派、中間派、および悲観派と分けたとき、これら3グループのシェアは社会的なムーブメントによって変化する。本研究ではこのシェアの変化を社会的動学(Social Dynamics)と呼ぶ。近年、不動産価格の暴騰や暴落が投資家集団の社会的動学によって説明されると主張する理論モデルが提案されている。本研究はこれを実証するという試みである。 実際の市場について上記の3つのグループのシェアを直接に観測することはできない。また、ある数時点のシェアであればアンケート調査によって近似値を得ることは可能であるが、シェアの通時的な(例えば、月次)変化を把握することはできない。そこで、本研究では、新たに集合的記憶指数(collective memory index)を作成しこれを各グループのシェアの代理指標として用いた。そこでは、経済新聞の記事(テキストデータ)、株価指数および不動産価格指数などを用いて集合的記憶指数を推定した。 本研究の成果は、不動産価格の一部が投資家集団の社会的動学によって決定されていることを実証したことである。また、不動産市場と株式市場とでは社会的動学の特性が異なることも分かった。
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