研究実績の概要 |
膠芽腫は脳腫瘍において発生頻度が最も高く、診断確定後の平均生存期間が約15箇月と報告されている極めて悪性度の高い腫瘍である。また化学療法や放射線治療に対しても高い抵抗性を示し、過去数十年にわたってその治療成績は殆ど改善されていない。 近年、膠芽腫をはじめとするある種の腫瘍においてがん幹細胞の存在が実験的に証明されている。がん幹細胞はがん組織のヒエラレルキーの頂点に立ち、高い造腫瘍能、及び自己複製能を示すことから、がんの根治のためにはがん細胞全体をターゲットとする従来の治療法を見直し、がん幹細胞に代表される造腫瘍能が高い細胞に的を絞った新たな治療戦略の展開が急務であると考えられる。 がん幹細胞の性質を維持するためにEGFが必須であると報告されていることから、我々は先行研究において質量分析計を用いた相対定量法であるSILAC法とTiO2カラムを用いたリン酸化ペプチド濃縮法を組み合わせ、患者由来膠芽腫幹細胞に関するEGF刺激依存的な大規模リン酸化プロテオーム定量解析を行った結果、当該細胞の幹細胞性維持においてmTORパスウェイが重要な働きを担うことが示唆された(Kozuka-Hata et al., PLoS One, 7: e43398, 2012)。本研究課題では、更にmTOR特異的阻害剤による当該パスウェイ下流シグナルの攪乱実験を行い、複雑な制御機構の特徴をリン酸化レベルで体系的に見出すことを目的とした。 平成26年度に取得した6,000種類を超えるリン酸化ペプチド情報に基づき、平成27年度は NetworKIN, Motif-x 等のリン酸化情報解析ツールを統合的に駆使し、ハブとなるパスウェイの抽出に成功した。また当該細胞に関して包括的な発現プロテオ―ム解析を行い、約5,000 種類の蛋白質に関する同定・定量を行った。
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