本研究の目的は、水晶体の構造タンパク質であるクリスタリンのプロテオーム解析を行い、多様な進化の過程を解明することである。クリスタリンは生物進化の過程で既存のタンパク質が無作為に転用されたものであり、その元になるタンパク質は種によって異なる。起源となるタンパク質がまだわかっていない種が数多くあるので、そのタンパク質の解明の一つとして、日本ウシガエル水晶体のρ-クリスタリンの起源となるタンパク質の候補を探すことに着手した。 既に、ρ-クリスタリンをコードする遺伝子配列のプライマーでRT-PCRすることにより得られたウシガエル組織由来の塩基配列を確認した。今回決定したアミノ酸配列(ρ-11)を,ρ-クリスタリンおよび、既に登録されている他種のアルド・ケト還元酵素の配列とアライメント解析したところ,アルドース還元酵素とも相同性が高く,近縁であることが分かった. 実際,ρ-11 にはアルドース還元酵素の活性ドメインと推定されているアミノ酸が保存されているため,酵素活性が残存している可能性が示唆された.これらの結果から,ρ-クリスタリンがアルドース還元活性を持つρ-11から変異し酵素活性を失活後に転用されたことを示唆された.これはこれまでの分子進化の報告によく一致する. 更にその遺伝子をクローニングしタンパク質発現ベクターを作製し、発現タンパク質の性質を調べることにより、ρ-クリスタリンの起源となるタンパク質を確認しようとした。このタンパク質は配列のホモロジーの高さからアルド・ケト還元酵素スーパーファミリーに属するものであると考えられたので、酵素としての特性を調べるために様々なアルド・ケト類を基質とした場合のアッセイを試みたが十分な活性と再現性が得られなかった。
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