本研究は質量分析を用いた内視鏡診断法のための新規遠隔試料採取法およびイオン化法の開発を目的としている。今年度では質量分析計と工業内視鏡に直接装着できる新規遠隔サンプリング・イオン化システムの開発と評価実験を行った。このシステムでは検体採取用の素材として糸などの細いラインを利用し、内視鏡で確認した検査対象部位に検体採取プローブを接触させる。検査対象の表面に由来する成分や組織そのものをそのプローブに拭取らせるように動作させてラインにごく微量の検体を付着させ、そのラインをモータと滑車で患者の体外まで輸送する。ラインは細いことに加えて殺菌されたものとし、本研究は縫合糸として利用されている非吸収性素材(ポリエステル、絹、綿、ステンレスなど)を利用した。微量な生体成分が付着したラインは外部に設置したモータで巻き取り、輸送中の損失なしに数秒程度で質量分析装置のイオン導入口にあるインターフェース部に到達する。ラインに付着した生体成分を専用のアンビエントイオン化部によって大気圧下で効率良く抽出/イオン化させ、質量分析計に取り込ませる。開発したin-vivo 内視鏡質量分析法を用いて活きたマウスの肝臓及びヒトの口内のの直接分析の実証実験を行った。当該装置は試料に熱的または化学的損傷を起こすことなく輸送でき、生体内での状態を維持したままの分析が可能であることが分かった。
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