研究課題/領域番号 |
26505004
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
二宮 啓 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (10402976)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 帯電液滴 / 二次イオン質量分析 / イメージング / 表面分析 |
研究実績の概要 |
本研究は新しいクラスタービームである帯電液滴を一次ビームとして用いることにより、二次イオン質量分析法における二次イオン生成効率を大幅に向上させ、感度と空間分解能に関して画期的な性能をもつ質量分析イメージング技術を確立することを目的としている。平成27年度の研究開発においては、真空エレクトロスプレーをビームソースとする真空型帯電液滴ビーム銃の試作機と従来からあるGaイオンビームを発生できる液体金属イオン銃を三重収束飛行時間型質量分析計に設置し、両方のイオンビーム衝撃によって発生する二次イオンの強度を直接的に比較した。実験では10kVの高電圧で加速させたGaイオンおよび帯電液滴の一次ビームをアミノ酸のアルギニン、グルタミン酸およびトレオニンの薄膜試料に照射し、生成された二次イオンの強度を比較した。Gaイオンをアルギニン(分子量174.20)に照射した場合には、プロトンが付加した分子の強度は極めて低く、分子が損傷して発生する分解片イオンの強度の方が高かった。一方帯電液滴を照射した場合には、分解片イオンよりもプロトン付加分子の強度が高く、分子があまり壊れずソフトにイオン化できることがわかった。また1粒子衝撃あたりの二次イオン発生効率を計算したところ、帯電液滴はGaイオンと比較して約3900倍も二次イオン発生効率が高いことがわかった。さらに分子量が比較的大きいDes-Arg9-Bradykinin(分子量904.02)の場合には、Gaイオンではプロトン付加分子は全く検出されなかったが、帯電液滴ではプロトン付加Bradykininがアミノ酸分子の場合と同等の強度で観測された。以上のことから帯電液滴は有機分子をイオン化する効率が極めて高いことを実用的な質量分析計による観測で実証することができたと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二次イオン質量分析法において、感度と空間分解能に関して画期的な性能をもつ質量分析イメージング技術を確立するためには、一次ビームとして使用する真空型帯電液滴ビーム装置とそれに適合した二次イオン質量分析部の両方を構築していかなければならない。真空型帯電液滴ビーム装置については、平成26年度に圧力制御型の液体供給システムをエレクトロスプレー用エミッタに接続することにより、15時間以上の連続運転でも電流強度の変動は上下5%以内に収まることを確認した。平成27年度には真空型帯電液滴ビーム発生装置の試作機を飛行時間型二次イオン質量分析計に設置して、二次イオン収率の絶対値を評価することに成功している。高感度で高い空間分解能を有するイメージング分析を実現するには極めて高い二次イオン収率が必要であるが、帯電液滴ビームを用いた場合の二次イオン収率の絶対値が従来のイオンビームと比較して極めて高いことを証明できた。以上のことから帯電液滴ビームを用いるイメージング質量分析に必要な実験セットアップの構築が順調に進んでおり、当初の計画通りの研究開発であったと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である感度と空間分解能に関してこれまでよりはるかに優れた性能をもつ質量分析イメージングを実現するためには、一次ビームとして使用する真空型帯電液滴ビーム装置と二次イオンの透過率が高い質量分析部を組み合わせて、最適な実験システムを構築することが重要でなる。平成27年度には真空型帯電液滴ビーム発生装置を市販装置に近い三重収束飛行時間型二次イオン質量分析計に設置することができ、アミノ酸やペプチド試料において二次イオン収率の絶対値を評価することができた。三重収束飛行時間型二次イオン質量分析計は投影型のイメージング分析が可能であるため、まずはパターン試料を用いて二次元イメージング分析を行い、得られたイメージ像の面分解能を評価する予定である。さらには帯電液滴ビームをイオン化だけでなくエッチングビームとしても使用することで、実用的な試料において最終目標である三次元イメージングを試みる予定である。
|