研究課題
結晶化が困難な故に、構造解析することができない天然変性タンパク質の気相および溶液における構造を解析・比較する目的で、P. Bernado 博士(仏)との共同研究を開始した。天然変性タンパク質試料(3k~ 26 k Da)について、nanoESIイオン源を装着した Travelling wave 型イオンモビリティ質量分析装置を用いてマススペクトルの測定を行うとともに、イオンモビリティセルを通過する arrival time から衝突断面積を求めた。一方、同じ一連のタンパク質群について、共同研究者らがX線小角散乱(SAXS)の測定を行い、得られる散乱曲線を矛盾なく説明できる構造アンサンブル(一つのタンパク質当たり 10,000 個の構造モデル)を作成した。この構造アンサンブルについて、横浜市大の汎用クラスター計算機を用いて、プログラム MOBCAL により衝突断面積を計算した。その結果、10 kDa 程度までは、気相と溶液構造のサイズの分布に大差はないものの、26 kDa の天然変性タンパク質では、気相における衝突断面積の分布が溶液に比べて幅広く、極めて大きいサイズ(5850 平方オングストローム)のものが多く存在するという結果が得られた。この理由として、arrival time から衝突断面積のキャリブレーションのための天然変性タンパク質の標準物質として、16 kDa 程度のものしか適用できるものがないことが一因である可能性を否定できなかった。そこで、文献調査の結果、beta-casein (26 kDa) をキャリブレーションの標準物質として加えることにした。研究を遂行するに当たり、8月に Bernado 博士の研究室にて議論するとともに、e-mail で情報共有および議論した。結晶構造解析できないフレキシブルな領域を有するタンパク質複合体について、イオンモビリティ質量分析を主たる解析手法として、気相構造の解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
年初に計画していた通り、イオンモビリティ質量分析による測定・解析と SAXS からの構造モデルの算出が順調に進んでいるため。
天然変性タンパク質の数を増やして解析を行うとともに、改良したキャリブレーション法を用いて、arrival time からの衝突断面積の計算を行う。e-mailを主な手段として共同研究者との議論を進める。
物品の購入費用を低額に抑えられたため。
質量分析関連の物品費および学会発表のための旅費として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件)
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