研究課題/領域番号 |
26505011
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
荒川 隆一 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (00127177)
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研究分担者 |
川崎 英也 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (50322285)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 白金スパッタ蒸着 / レーザー脱離イオン化 / タッピング走査プローブ / エレクトロスプレー / イメージング質量分析 / 添加剤 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,試料表面上に存在する低分子量の有機化合物の分布を簡便に計測するためのイメージング質量分析(IMS)法を開発することである.申請者らが新しく考案した2種類のイオン化法である1)白金スパッタ蒸着法を利用したレーザー脱離イオン化(Pt-SALDI)と2)タッピング型走査プローブエレクトロスプレーイオン化(t-SPESI)を利用して新規なIMS法の実現をはかる. 今回,特にt-SPESIによるIMS法の実現に注目し,t-SPESI試料装置の2 軸自動制御と可視化ソフトの開発を主に行った. LabVIEWシステムを用いた試料ステージ走査,データの取り込みと処理,画像化といったIMSに必要な制御インターフェースの作製および制御プログラムを開発した.その動作確認のために,高分子中の酸化防止剤の分析と高分子フィルム中に含まれる添加剤のイメージングMSの有効性を検証した. スプレー溶媒の違いによる試料高分子中の添加剤のイオン強度の変化を測定するために,酸化防止剤(Irganox1098)を含むPS,PMMA,6,6-ナイロン(PA66)溶液をステンレスプレート上に塗布・乾燥させた.メタノール,アセトニトリル(AN),AN/THF,AN/HFIP溶液の4種類のスプレー溶媒を用いて,t-SPESIによるIrganox1098のイオン強度を比較した.その結果,メタノールは高分子表面の添加剤を検出し,一方AN/THFとAN/HFIP溶媒は高分子表面およびフィルム中の添加剤も検出するのでイオン強度が大きいことがわかった.さらに,縞状にUV照射したPMMAのモデルフィルムの実際の写真と添加剤のt-SPESIイメージング図を重ね合わせたところ,UV照射部位と添加剤イオンの消失部が完全に一致した.したがって,酸化防止剤の分布解析にt-SPESI-IMSが有効であることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画は,(1)金属スパッタ蒸着法の最適化,(2)蒸着ナノ粒子表面でのレーザー脱離イオン化メカニズムの解明および(3)t-SPESI試料台の2軸自動制御と可視化ソフトの開発の3点が目標であった. しかし,(1)と(2)の項目について現在進行中であり,充分な成果がまだ得られていない.その一例として,Ptスパッタ蒸着においてPtナノ構造体の形態は,スパッタ時のArガス圧や膜厚に依存することがわかった.TEM写真の結果から,試料イオンの強度が大きい最適なPt蒸着の膜厚には空孔が多数分布しており,そのことが試料イオンの脱離に必要と思われる.(3)の項目について,試料台の2 軸制御,信号取り込みシステム,可視化ソフトの開発を完了し,t-SPESIイオン化よるイメージング質量分析が可能になった.そこで,t-SPESIによる高分子中の酸化防止剤の分析と,高分子フィルム中に含まれる添加剤のイメージングMSの有効性の検証を行った.その結果,t-SPESI-IMSが工業材料の表面に含まれる添加物の分布解析に有効であることがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究計画は,Ptスパッタ蒸着を利用した表面支援レーザー脱離イオン化(Pt-SALDI)の研究を主に推進して,生体試料であるたとえばラット脳切片のイメージング質量分析への適用を試みる.MALDI法と比較して,Ptスパッタ蒸着法は乾式法で直接にPtナノ粒子を試料に均一塗布できる簡便な方法である.ペプチド,薬物,オリゴ糖,ステロイド系化合物,脂質の脱離・イオン化について,Pt-SALDIとMALDI法を用いて比較評価する.その結果,MALDIで検出できないがPt-SALDIでのみ特異的に検出できる生体分子が存在することを期待する.さらに,有機マトリックス(MALDI)と無機マトリックス(Pt-SALDI)の両方を用いたmatrix-enhanced Pt-SALDI法によるラット脳の脂質のイメージング質量分析を評価し,イオン検出感度の向上を実現する.Pt-SALDIは試料調製が簡便であり高い再現性が期待されるため,イメージング質量分析のイオン化法として有用であると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の消耗品が期間内に納入できなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額と27年度配分額をあわせて,生体試料のイメージング質量分析のための消耗品であるペプチド,薬物,オリゴ糖,ステロイド系化合物,脂質などの試薬を購入する予定である.
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