研究実績の概要 |
糸状菌は生理活性を有する多くの低分子天然化合物を産生することで知られる。これら化合物は二次代謝経路によって生合成されるが、我々は、ゲノム情報と発現情報を組み合わせた手法によって、これまで糸状菌では知られていなかった種類の二次代謝経路であるリボソームペプチド生合成(RiPS)経路を見出した(Umemura et al., Fungal Genetics and Biology, 68, 23-30, 2014)。本経路では、化合物の骨格構造がそのまま前駆体遺伝子に書き込まれているため、ゲノム情報からの新規生合成遺伝子探索および化合物のデザインがより容易であると考えられる。この知見に基づき、本研究ではより広範に同種の経路を糸状菌に見出し化合物と生合成遺伝子のペアを同定することを目的とする。 初年度である本年度は、上記新規経路を見出したAspergillus flavusを中心に、遺伝子情報および代謝物の探索を行った。上記最初の糸状菌RiPS経路の例であるustiloxin生合成遺伝子群の特徴を元に、可能性のある遺伝子を複数種類破壊し、代謝物をLC-MS測定にかけた。その結果、新規なRiPS経路である可能性のある遺伝子群を1つ見出した。すなわち、他の糸状菌二次代謝経路と同様RiPS経路もゲノム上でクラスターをなして協同的に発現すると考えられるが、そのクラスター中の3種類の異なる遺伝子を破壊することで共通して消失する1つのMSピークを見出すことができた。アミノ酸成分解析の結果、このピーク画分は破壊した前駆体遺伝子に対応したリボソームペプチドである可能性が高い。 その他、他のAspergillus属の株を10種類購入または譲受し、生育条件等の基礎的な挙動を観察するとともに、来年度以降の探索に向けて2~3種類の温度条件下での代謝物を測定した。
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