研究課題
糸状菌は多くの生理活性物質を産生することで知られる。その生合成経路は、医薬品等になりうる化合物の合成・生産において重要な遺伝子資源である。近年、糸状菌Aspergillus flavusにおいて、二次代謝物質ustiloxinの生合成経路が同定された。代謝物中間体および遺伝子アミノ酸配列の詳細な解析により、本経路は、化合物の骨格構造がペプチド鎖として前駆体タンパク質に直接書き込まれた糸状菌で初めてのリボソームペプチド生合成経路の例であることが明らかとなった。そこで本研究課題では、他にも存在するであろう同種の経路をAspergillus属を中心に探索し、遺伝子破壊と代謝物測定から、生合成経路と該当化合物を同定することを目的とする。初年度であるH26年度は、10種類のAspergillus属菌株を入手して生育条件などの基礎データを取得するとともに、ustiloxin生合成経路を見出したA. flavusにおいて、新たに一つの同種のリボソームペプチド生合成経路および化合物のセットの候補を見出した。H27年度は、該当前駆体タンパク質を中心に、複数の培養条件下で取得された遺伝子発現情報から生合成経路に含まれるその他の遺伝子を推定し、遺伝子破壊により確認した。また該当化合物が新規な構造を持つ環状ペプチドであることを同定した。またA. flavusにおいて、遺伝子破壊により新たにもう一つ新規該当生合成経路を見出した。平行して、A. flavus以外の10種類のAspergillus属菌株のゲノム解析と遺伝子発現情報からいくつかの生合成経路候補を選択し、遺伝子破壊および高発現により該当化合物を探索した。
2: おおむね順調に進展している
計画通り糸状菌新規リボソームペプチド生合成経路および生合成される新規環状ペプチドを同定した。これまで10万種類以上の天然化合物が同定されているにもかかわらず、新規化合物ペプチドとその生合成経路を同定できたことは、本研究課題の目的に沿った結果である。
新たに見出したA. flavusにおける候補化合物およびその生合成経路について、該当前駆体タンパク質および生合成に関わる因子の破壊により消失するLC-MSピークを分取し、化合物の構造を決定する。該当前駆体タンパク質周辺の遺伝子を網羅的に破壊して、生合成経路を同定する。他のAspergillus属の複数の株について、候補遺伝子を破壊し、消失LC-MSピークを探索する。
H27年度は見つかった目的LC-MSピークに対応する化合物分取と同定、および情報収集とディスカッションのための学会参加が主な活動となった。H27年度は計画通りに進んだためほぼ当初の申請額を使用したが、前H26年度学会参加のため前倒し請求を行ったものの他予算との関係上使用しなかった未使用分が繰り越されることになった。
新たに見つかった該当化合物の構造決定に向けて大量精製を行う必要があるため、補助要員を3ヶ月雇用する。分取とLC-MS測定のための必要試薬を購入するとともに、成果発表と幅広い研究者との情報交換およびディスカッションを行うため、国際学会に参加する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 産業財産権 (1件)
Fungal Genetics and Biology
巻: 86 ページ: 58-70
doi: 10.1016/j.fgb.2015.12.010
Bioinformatics
巻: 31 ページ: 981-985
doi: 10.1093/bioinformatics/btu753