本研究では、宇宙放射線による葉緑体障害の特徴づけを行うこと、その障害を除去し葉緑体機能を維持する「葉緑体クリアランス機構」を解明すること、を目的としている。後者については、特に細胞内自己分解システム「オートファジー」による葉緑体クリアランスの機能と分子メカニズムに焦点を当てている。平成28年度は、以下の2項目について研究成果が得られた。
【3】オートファジーによる葉緑体クリアランス機構の分子メカニズム:前年度までに発見していた、壊れた葉緑体がオートファジーによって丸ごと除去される葉緑体クリアランス機構について、紫外線による活性酸素種の蓄積が一種の誘導トリガーとなること、葉緑体を部分分解するもう一種の葉緑体オートファジー経路「RCB経路」とは異なるメカニズムで制御されていること、を明らかにした。当該成果については、米国植物生理学会誌The Plant Cellに原著論文が受理、掲載された。
【4】過剰光エネルギーに対する植物の防御機構が放射線照射下で果たす役割の評価:地表に到達する可視光の過剰エネルギーに対する既知の障害除去や軽減に関わる機構が宇宙放射線耐性にも寄与するかを、各種変異体を用いた表現型解析によって評価した。その中で活性酸素除去を担う酵素や強光からの葉緑体逃避運動を誘導する光受容体の変異体は紫外線B障害に感受性を示したが、光合成の明反応で最も損傷しやすいタンパク質複合体PS2の分解、除去を担うプロテアーゼFtsHの変異体は紫外線B感受性を示さなかった。よって、一部の可視光防御機構が宇宙放射線耐性機構としても重要な役割を示すこと、可視光防御機構の宇宙放射線耐性への寄与は一様ではないこと、が明らかとなった。
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