研究課題
本研究は、実験進化により、富栄養条件下のみ増える既知細胞から極少栄養環境下でも増殖する細胞の創出を試みる。速い増殖から資源の効率的利用への機能変化のプロセス(適応進化)を解析することにより、僅かな栄養資源を巧みに使う極限環境微生物の生存機構の解明を目的とした。、そこで、我々は厳しい自然界で生きる微生物の生存戦略を注目し、実験室内で、栄養源の枯渇と緩和を繰り返す自然環境を疑似し、大腸菌に対する自然選択を行った。これまでの結果として、大腸菌細胞が飢餓に強い耐性の獲得と引き換えに、富栄養下での適応度が下がることが明らかとなった。そして、その増殖速度の低下が翻訳マシンナリーであるリボソームの失活に相関することも分かった。必須なリボソームタンパク質が失われることにより、環境中の僅かな栄養成分の効率的利用が実現されたのではと考えられ、環境微生物の省エネ的な生き残り戦略がうかがえる。ここまでの成果に関しては学会や論文で公表した。次に、複数系列の進化実験をすべて調べた結果、系列ごとに適応の仕組みが異なっているようであった。そのため、進化実験に獲得されたすべての大腸菌集団に対して、ゲノムリシーケンスを行うことにした。これは、当初の計画外の内容であるため、外部協力を得て、実施することができた。現在、遅い増殖を示す進化型の大腸菌がどのようなゲノム進化を経て、極小栄養環境下でも生存できるようになったのかを解明している。最終的に、極貧環境下での微生物の生存戦略およびその普遍性を明らかにする。
1: 当初の計画以上に進展している
実験進化の結果、大腸菌は、増殖能を落として、栄養成分の効率的利用を実現し、極めて低い濃度の栄養下でも生存できようになった。この現象を進化生態学的、分子生物学的に解明するため、ゲノム配列を解読することにした。当初の計画に含まれていない内容であるため、H27年度ゲノム支援プログラムに申請した。課題が採択され、全進化過程に対するゲノム変異解析が可能となった。そこで、九州大学の林哲也教授と大阪大学の松田秀雄教授の研究グループらの協力により、現在ゲノムリシーケンス及びゲノム変異解析が進められた。以上、当初の研究成果を公表したうえで、計画以上にゲノム解列解析が可能となったため、計画以上の成果が期待できる。
進化前後の性質(ゲノム配列、遺伝子発現、適応度など)を解析し、適応進化に関わる既存理論の検証または新規メカニズムの提案を目指す。具体的には、この進化実験で獲得されたすべての大腸菌集団に対して、ゲノムリシーケンスを行い、スローライフを営むようになった大腸菌がどのような遺伝子型によって決められているのか、極小栄養環境下で生存戦略の普遍性を明らかにする。以上により、生命の持続性や環境微生物生態の理解に有益なヒントを与える。また、表現型の変化(つまり、遅い増殖)がゲノム変異による分子機構(つまり、翻訳機構)の最適化原理を調べ、分子生物学的にも関連付けることを目標とする。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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