研究課題
最近の宇宙実験により、個々の培養動物細胞が微小重力環境を感知し応答することが分かってきた。しかし、そのメカニズムの詳細は未だ不明である。本研究では、この課題に挑戦し「重力変化は比重の重い細胞内器官を介して細胞内骨格の張力に影響を与え、細胞の初期応答を引き起こす」という仮説を検証し、動物細胞が微小重力環境を感知する仕組みを分子レベルで明らかにすることを目的としている。特に、機械刺激受容チャネルなどのメカノシグナルに注目して、感知応答反応におけるそれらの役割と上流経路を解析する。また、国際宇宙ステーション「きぼう」における宇宙実験プロジェクトを利用し、細胞の重力感知/応答機構に関わる分子基盤の解明を目指す。今年度は、細胞のメカノトランスダクションを担う転写調節因子YAPに注目し、模擬微小重力環境、あるいは、微小重力環境下においた培養細胞におけるYAP活性の変化を解析した。その結果、模擬微小重力環境下で24時間培養した間葉系幹細胞では、YAP活性が低下していることを細胞組織染色により見出した。すなわち、対照群と較べてYAP分子が核内に局在している細胞の割合が減少していた。YAP活性の低下はレポーターアッセイ法によっても確認された。Western blotting法により、YAP量を解析したところ対照群の細胞と較べ模擬微小重力環境においた細胞にほとんど変化は見られなかった。従って、YAP活性は細胞内局在の変化に依存すると考えられた。さらに、国際宇宙ステーション内で培養した間葉系幹細胞においても、YAP分子が核内に局在している細胞の割合が対照群より低下していた。従って、YAP分子の活性低下が細胞の微小重力環境感知におけるシグナル伝達経路である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
地上実験に加え、国際宇宙ステーションの「きぼう」での宇宙実験を利用し、細胞の微小重力環境感知における重要なシグナル伝達経路を明らかにしつつある。微小重力環境下においた培養動物細胞の動態のライブ観察を目指した試みは、9月のロケットの打ち上げ失敗により一度は潰えたが、再度、サンプルを打ち上げることになり再挑戦中である。
これまでに見出した微小重力環境下における間葉系幹細胞のYAP/TAZ分子の活性低下を手掛かりにその上流を解析し、当初、構築した感知機構のモデルの検証を行う。また、YAP/TAZ分子の活性低下を抑制あるいは亢進した場合、模擬微小重力環境における間葉系幹細胞の骨分化がどうなるか解析し、YAP/TAZ分子の活性低下が間葉系幹細胞の微小重力環境に対する応答反応に対しどのような意義を持つのか解析する。加えて、3回目の宇宙実験に再度、取組み、微小重力環境下での間葉系幹細胞のミトコンドリア、細胞骨格や接着斑を可視化し細胞内での動態のライブ・イメージングを行う。
2015年6月のロケット打ち上げ失敗によって宇宙実験が中止となったが、次年度にかけ再度取り組んでいる。しかし、そのため研究計画の実行に若干の遅れが生じた。その結果、そのための試薬購入時期がずれ、その消耗品購入分を次年度に繰り越した。
上記の試薬を購入する予定。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
Sci Rep
巻: 6 ページ: -
10.1038/srep22288
THE BONE
巻: 29 ページ: 255-263
Subcell Biochem
巻: 72 ページ: 613-626
10.1007/978-94-017-9918-8_28