最近の宇宙実験により、個々の培養動物細胞が微小重力環境を感知し応答することが分かってきた。しかし、そのメカニズムの詳細は未だ不明である。本研究では、この課題に挑戦し「重力変化は比重の重い細胞内器官を介して細胞内骨格の張力に影響を与え、細胞の初期応答を引き起こす」という仮説を検証し、動物細胞が微小重力環境を感知する仕組みを分子レベルで明らかにすることを目的としている。特に、機械刺激受容チャネルなどのメカノシグナルに注目して、感知応答反応におけるそれらの役割と上流経路を解析する。また、国際宇宙ステーション「きぼう」における宇宙実験プロジェクトを利用し、細胞の重力感知/応答機構に関わる分子基盤の解明を目指す。これまで、我々は、足場の硬さや細胞内骨格の張力に依存して活性制御を受けることが知られている転写調節因子YAPに注目し、模擬微小重力環境あるいは微小重力環境においた間葉系幹細胞におけるYAP活性が、リン酸化とは別の制御を受けて低下することを見出してきた。今年度は、核やミトコンドリアとストレス線維を結ぶアダプター分子の発現抑制により核やミトコンドリアとストレス線維の相互作用を修飾し、細胞の模擬微小重力環境の感知への応答を解析した。その結果、間葉系幹細胞において、アダプター分子の発現抑制により、(模擬)微小重力依存的な細胞内シグナルが失われることを見出した。従って、核やミトコンドリアとストレス線維の相互作用が、細胞の(模擬)微小重力環境感知に関与している可能性が示唆された。さらに、ストレス線維の張力変化も細胞の(模擬)微小重力環境感知に重要である知見も得ており上記仮説を支持する。
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