研究課題/領域番号 |
26506014
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
田川 善彦 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (70122835)
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研究分担者 |
志波 直人 久留米大学, 医学部, 教授 (20187389)
新田 益大 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (20453821)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電気刺激 / 筋疲労 / M波 / 微小重力 / トレーニング / シミュレーション / 宇宙酔い / 筋力計 |
研究実績の概要 |
電気刺激誘発筋電位(M波)を計測し、刺激筋の疲労や筋発揮力が推定可能か否か、検討した。高強度の刺激を除けば、M波と筋の疲労・発揮力のパターンは類似していた。これは電気刺激システムに筋電電極を追加するだけでよく、同質の機序でシステムを構築でき、微小重力下における被験者の作業負担を軽減できる。またオンラインでの筋発揮力推定であり、運動中の負荷量の評価を容易にする可能性がある。しかし、M波の抽出には刺激電位や蓄積電荷の影響などノイズ対策が極めて重要であり、引き続き検討を行う必要がある。一方、ハイブリッドトレーニング(HT)時の主動・拮抗の同時収縮運動時の内部作用力を筋骨格モデルにより算出し、微小重力下で問題となる骨減弱対策として運動時の関節負荷の推定を試みた。 2014年度のISS内でのHTが予想以上に順調であったことは、関節変位の測定において、現行の光学式エンコーダが宇宙環境での雑音因子に対して頑健であり、同センサや刺激電極と配線ケーブルを設置したトレーニングウェア着脱も容易だったことを意味する。さらに、HTシステム(HTS)の放射雑音による周囲機器への影響や放射感受性による誤動作などは発生せず、考慮したEMC対策が信頼性の高い安全なトレーニングシステムを提供できたといえる。 また適宜、トレーニング効果の評価を実施し、運動条件の見直しが必要となる。そこで狭隘な環境で筋力測定(等尺性および等速性)を可能とする小型・軽量の筋力計を設計・試作したが、今後、地上での評価試験、EMC対策など考慮する必要がある。 現HTSは身体の船内固定を前提としているが、浮遊HTを想定した身体全体の搖動をシミュレートし、搖動の周波数と宇宙酔いとの関連性を調査した。上肢・下肢の運動が誘発する身体運動の影響は微小であり、運動によって酔いを誘発する可能性は小さいと推論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電気刺激による筋疲労検出について、筋音センサの占有する設置面積や計測時の異種信号処理に伴う回路の煩雑などを考慮し、電気刺激による誘発筋電位(M波)計測を推し進めることにした。特に、バースト波刺激時のM波の発生機序、同処理部(ブランキング、蓄積電荷放電など)の検討、刺激強度と疲労・筋発揮力・痛みとの関連性を検証した。また筋収縮力を発揮する当該筋に貼付する刺激電極の形状の決定手法とその効率的作業について、一定の成果を得た。また関節変位センサに関して、考案した光ファイバー角度計の実用角変位に耐え得る素材の選定(柔軟で低摩擦・非伸縮性)が困難であること,出力電圧が十分でないこと、当該関節変位に影響を与えないファイバーの身体設置が目的外の関節運動の影響を受けることなど、特に極限環境ではノイズ耐性の低下につながる可能性が示唆された。現HISのISS内使用が良好であったことを踏まえ、光学式エンコーダ利用が適切と判断した。 一方,微小重力下でのトレーニングの指針や評価を容易とする以下の取り組みを新たに行った。 (1) 筋骨格モデルを用いてHTのシミュレーションを行い,活動する筋や骨への圧縮荷重を検証した。 (2) 浮遊HTを想定した身体全体の搖動をシミュレートし、搖動の周波数と宇宙酔いとの関連性を調査した。またエルゴメータとのHT併用やクルー4名の火星探査船内でのHTを想定した計算機モデルを構築した。 (3) 狭隘な環境で取り扱い運動効果を評価するための筋力計(等尺性および等速性収縮を想定)を試作した。
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今後の研究の推進方策 |
研究環境の変化に伴い新たな機器の試作・評価などが困難となったため、26年度の知見の信頼性向上のための実験的検証、計算機シミュレーションと被験者を用いた地上実験による検証へと重点を移した研究内容とする。 (1) 刺激波形にバースト波を用いた場合に留意すべきM波の発生機序、同処理部(ブランキング、蓄積電荷放電など)の検討、刺激強度と疲労・筋発揮力・痛みとの関連性を引き続き検討する。また電極間インピーダンスの変化とそれらの関連も検討する。HTSでのM波は遠心性収縮時のものであり、一般の電気刺激による求心性収縮時のM波とは異なる。この点に留意しつつそれらの関連性について検討する。これには試作した小型筋力計を用いる。さらにHTによる身体への負荷(関節間力、筋力)を計算機シミュレーションにより引き続き検討し、過負荷の回避と運動内容を模索する。これらの知見を踏まえ、HTSでの適切な刺激条件を決定する。 (2) 構築した下肢HTとエルゴメータ併用の計算機モデルを用いて、ISSへの影響、火星探査船(4名のクルー)で同様の運用を想定した計算機シミュレーションを引き続き実施する。エルゴメータとの併用は地上で被験者を用いて検証実験(刺激の強度とタイミング、刺激電極の大きさと抵抗負荷、トレーニング時間、期間など)を行う。 (3) 船内非固定方式である浮遊HTと宇宙酔いの誘発可能性について、計算機シミュレーションにより引き続き検討を行う。
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