研究課題/領域番号 |
26506014
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
田川 善彦 久留米大学, 医学部, 客員教授 (70122835)
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研究分担者 |
志波 直人 久留米大学, 医学部, 教授 (20187389)
新田 益大 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (20453821)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サイクリング / 電気刺激 / 微小重力 / シミュレーション / 酸素摂取量 / 下肢関節反力 / 最適条件 / パラボリックフライト |
研究実績の概要 |
0gでの不活動性筋骨格系萎縮を改善あるいは防止するために,適切な運動手段と運動強度を設定することが望まれる。運動手段には運動強度の設定が容易なエルゴメータを想定した。運動強度の目安として,代謝を示す酸素摂取量と骨格系維持のための膝関節反力に希望値を設定し,かつエネルギー消費を低減するサイクリング運動の最適化を考えた。 0gの実験環境もとで試行錯誤の実験を繰り返すことは,時間と費用が相当大きくなることが予想される。このためは精緻な筋骨格モデリングシミュレーションシステム(AMS)を用いてハイブリッドトレーニングシステム(HTS)を用いたエルゴメータ(HER)サイクリングについて,コンベンショナルとリカンベントの両タイプのモデルを作成した。これらのモデルを用い,広範囲の運動条件を仮定して筋骨格系萎縮対策に有用な適切な運動条件を見出す。まずモデル検証のため昨年に引き続き1gでの実験結果と比較した。随意運動を想定した前者タイプでの健常者によるクランク回転速度を変化(ただし複数の機械的負荷を与えた)させたときの酸素摂取量,身体機能が減弱していると想定できる人工股関節置換後の高齢者によるサイクリングにおいて機械的負荷を変化(ただし複数の回転速度を与えた)させたときの膝関節反力について計算を行い,実験値と比較した。両ケースとも良く類似した結果が得られた。また両タイプにおける機械的負荷と回転速度の酸素摂取量への影響を計算したところ,実験と同様にリカンベント型が大きいな値となった。次に1g,0g下での両タイプのエルゴ運動時の酸素摂取量と下肢関節反力を計算したところ,0gでの値が大きくなった。さらに運動強度に希望値を設けた0gHERの最適条件は,VERの場合の機械的負荷と回転速度を大きく低減させた。すなわち0g下での運動プログラムに融通性を与え,運用上の利点となる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HTSの筋収縮力測定のため,2リンクアームによる上腕における電気刺激遠心性収縮時の筋収縮力をM波のピーク値にて推定した。電気刺激遠心性収縮では,モーメントが上昇,M波のピーク値は減少した。また不活動性廃用の軽減や防止の観点から,運動強度に関節反力やエネルギー消費を加味した最適サイクリング運動について提案した。所望する酸素摂取量および膝関節反力のもとでの0 g 随意エルゴ(VER)・HERサイクリングの最適条件の比較から,HTSがペダルの回転速度と機械的負荷を減少させ,受け入れ可能なトレーニング条件を得るのに効果的方法であることを示した。 HTSを用いたリカンベントエルゴ(HRER)サイクリングをパラボリックフライトで検証するために,クランクの回転速度(60rpm)の保持状態にて,1g,1.5g, 2g, 0gでの被験者の経皮的動脈血酸素飽和度(SPO2)と脈拍,酸素摂取量(VO2),膝関節の変位,電気刺激タイミング,エルゴメータクランク角度,機内の気圧と三軸加速度を計測項目とする計測系を製作した。現在,計測データの解析中である。一部のデータから判断すると,重力加速度の変化に伴う酸素摂取量の変化傾向は,AMSにて作成したリカンベントVER(VRER)・HRERサイクリングモデルによるシミュレーションでの予想と一致した。また重力加速度の差異がサイクリング時の下肢の運動の違いとなって現れ,0g下での下肢運動制御に伸長反射を利用していることが推論された。 さらにAMSの筋の最大筋力の減弱を想定したシミュレーションでは,同一の運動強度での健常な筋の場合と比較し,同時収縮や筋力の変動幅の減少を示す計算結果が得られ,他の研究者による実験と同様の結果を示した。すなわち筋の劣化状況に応じた運動の戦略があると推論された。
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今後の研究の推進方策 |
HTS遠心性筋収縮のM波計測を引き続き実施(被験者を増やす)する。2リンクアームを改良してM波のピーク値と筋収縮力の関連性を定式化する。刺激強度は最大耐用電圧まで印加し,所望の筋収縮力を痛みなく設定する方法の基礎データとする。電気刺激の上昇とともにM波と筋出力が緩慢な変化を示すようになるが,その変化点に注目して,その定式化を検討する。 実際のリカンベントエルゴメータによるVRERとHRERサイクリングの実験条件に近いシミュレーションモデルを作成し,実験値との対比を試みる。1g以外の種々の重力加速度が酸素摂取量や下肢関節反力に与える影響を評価し,宇宙活動時の予測を行う。また電気刺激誘発筋収縮力は刺激強度の設定により容易に可変でき,HER時の下肢関節に作用する反力を容易に制御できる。しかし,反面,過大な負荷となる可能性があり,運動状態と刺激強度の関連性についてシミュレーションによって知見を提供する。特に膝関節には膝蓋-大腿骨間の反力を作用しており,過剰な作用が関節傷害と関連する重要性や,適切な大腿骨長軸への圧縮力が骨密度維持に寄与できる可能性があり,検討する。また最適なサイクリング条件を検討する。筋減弱のサイクリング特性のシミュレーションを通じて,その機序解明を継続してすすめる。HTS効果を上げるためにHER時の足関節にも刺激を印加し,下腿の抗重力筋の活動や踵骨への作用力,酸素摂取量をシミュレートする。実際に被験者によるHRER実験も試み,計算結果と比較する。簡便な手法による0gエルゴメータサイクリングを模擬できる実験装置の構築を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
現研究環境では,機械システムの製作に想定以上の時間を要すると判断したため,研究実施計画を再度検討し,平成27年度より計算機シミュレーションに重点を移し,HTSの効果が予測可能なモデルを開発することとした。このため平成28年度は精緻なシステムの製作費用が未使用となった。また本研究テーマの研究分担者が平成29年1月中旬にHTSによるパラボリックフライトエルゴメータ訓練を完了している。当方は,29年度にパラボリック実験結果と対比可能なシミュレーションモデルの開発を通して,本研究テーマの当初の研究目的を達成するため,最終年度延長を申請した。後日承認が得られた(平成29年3月21日)ため,未使用額を繰り延べ,モデル解析とその補完実験に充当する。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年1月~4月にかけて投稿し採択された論文(学会誌および国際会議)の掲載費と登録費, 平成29年度の関連学会での発表(出張費と登録費),HTS遠心性収縮力のM波による推定のための追加実験費,他研究者テーマの研究分担者となって昨年度に仕上げたパラボリックフライト用エルゴと運動計測システムを擬似的な0gに対応が可能なシステムとする改良費用(比較的簡便な構造をアイデアとして持っている)等に充当する。現在,AMSを用いてシミュレーションモデルを開発中であるが,興味ある知見が得られつつあり,引き続きシミュレーションと実験による検証をすすめる。
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