紫外線照射(UVB)を受けると細胞内に活性酸素種(ROS)が産生され、遺伝子異常をもたらし、それにより細胞ががん化し細胞死が生じる。同様に放射線、宇宙線への暴露は同じメカニズム、すなわちROSの産生、遺伝子異常のために細胞に重篤な影響を及ぼす。これに対して間歇的な光線の照射を行うと細胞内に分子シャペロンが作られ、抗酸化作用により傷ついたタンパク質の修復が行われ、結果として紫外線、宇宙線、放射線耐性が生まれる。このメカニズムを詳細にして、どのような条件で光線照射を行うかを検討した。 本年度は近赤外線照射によるヒートショック・タンパク質(HSP70)の発現誘導効果を培養正常ヒト表皮角化細胞とヒト扁平上皮癌細胞を対象として検討した。検討項目は、HSP70相対的発現量、細胞の生存率である。それぞれの培養細胞を2日間培養後、近赤外線照射装置から中心帯域1000nmの近赤外線を30分間連続照射(3.5KJ/平方メートル)した。その後、それぞれの培養細胞からタンパク質を回収し、ウエスタンブロット解析を行ってHSP70の発現量を正常細胞とがん細胞で比較した。さらに細胞をトリパンブルー染色して細胞数を計測した。 その結果、HSP70の発現量を正常細胞とがん細胞で比較すると、正常細胞のみでほぼ6割の発現量増加を観察した。さらに近赤外線照射を行わない正常細胞とがん細胞を対照として、赤外線照射の効果を比較したところ、正常細胞では近赤外線により生存率が3割上昇したが、がん細胞ではほぼ半減する結果を得た。これら結果をまとめると、正常細胞では近赤外線照射によりHSP70が発現誘導され、細胞死から保護されたが、がん細胞ではHSP70の発現誘導は起こらず、細胞死が促進された。これらの実験事実は、近赤外線照射はROS による皮膚の損傷を防ぐ有効な手段であることを示し、上述する我々の作業仮説を裏付けるものであった。
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