本年度は発生した乳腺腫瘍の最終診断と、特に妊娠効果が見られた線量の悪性腫瘍について、ホルモン受容体発現や増殖関連の免疫染色を行った。 また、ドイツで開催された、第43回ヨーロッパ放射線影響学会(ERRS)に参加し、「Refractoriness to neutron-induced mammary carcinogenesis in parous rats」というタイトルでポスター発表を行った。発表内容は、照射時における正常乳腺において、妊娠の有無でホルモンリセプター(ERα、PR)や増殖マーカー(Ki-67)に変化はなかったこと。ヒトの疫学調査の結果とは異なり、SDラットを用いた本研究においては、自然発生の乳がんは妊娠の有無で差は認められなかったこと。しかし、放射線誘発の乳がんは、特に高線量の被ばくによる発がん率を大きく下げる結果であったことを報告した。乳がんに関する情報として、がんの放射線治療では、TGF-beta (Transforming growth factor -beta) の関与についていくつかの報告があった。TGF-betaは、多種多様な機能を持つサイトカインで、正常細胞には増殖阻害、がん細胞には悪性の進展に関わる。近年、TGF-betaがDNA損傷修復にも関与するとこが明らかとなり、NHEJ活性を高め、反対にRad51やBrcaの活性を下げる(トータルとしては、放射線による生存率の低下は抑えられる)。このことは、発がんとがん治療における有益な標的分子であると考えられる。 出産を経験したラット乳腺では、TGF-beta3の発現が高まっているという報告があり、このことは出産後の乳腺におけるDNA修復タンパクや、放射線照射後の、gammaH2AXやrad51の発現、アポトーシスなどのDNA損傷応答の変化が考えられ、照射直後の乳腺の状態を調べる必要性を感じた。
|