研究課題/領域番号 |
26506029
|
研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
東端 晃 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 有人宇宙技術部門, 主任開発員 (30360720)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 微小重力 / 線虫 / トランスクリプトーム / 筋萎縮 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体での発生過程における重力変化に対するクリティカルポイントを探るため、モデル生物である線虫C. elegansを宇宙実験の地上検証において広く使われているクリノスタット上で培養し、その後の遺伝子発現変化を網羅的に調べた。 二軸の3Dクリノスタットを用いて回転数の検討をし、X軸を11rpm、Y軸を13rpmと決定した。線虫の培養には大腸菌OP-50(OD600=5)を含む液体培地を用いたが、粘性物質であるメチルセルロースを0.75%培地に添加することにより、クリノスタットの効果がより明確にみられることが明らかになった。 【実験手法】線虫からアルカリブリーチにより卵を回収しL1幼虫に同調させた後、それらを密閉型培養容器の中で培養した。実験群は静置培養(コントロール)群とクリノスタット培養群とし、培養後1日目、2日目、3日目で試料を回収し、-80℃で凍結保存した。各実験条件については統計処理のためn=3またはn=4で行った。 凍結試料を解凍・洗浄後RNAを抽出し、DNAマイクロアレイにより網羅的な遺伝子発現解析を行った。また、付随する解析として線虫の体長を計測した。 【実験結果】DNAマイクロアレイの結果から、クリノスタット培養の効果として培養期間中に有意差を持って2倍以上変化する遺伝子は約3000種程度検出された。特に培養2日目に変動する遺伝子が多く、クリノスタット培養群の体長においても静置培養群と比べて差が一番大きかった。発現パターンの解析から、2日目のクリノスタット培養群と1日目の静置培養群、同様に3日目のクリノスタット培養群と2日目のコントロール群の発現パターンが類似していることが分かり、クリノスタット培養群では線虫の生育が遅くなる可能性が示唆された。現在2日目に変化を示した遺伝子群を中心にどのような遺伝子群が変動しているかを詳細に調べている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3Dクリノスタットによる線虫の培養条件について、0.75%メチルセルロースを添加した液体培地によって最適化ができた。DNAマイクロアレイの結果から遺伝子発現におけるクリノスタットの影響は2日目に大きく見られることが明らかとなり、L2からL3の生育ステージにクリティカルポイントがあることが示唆された。これは当初の目的である、線虫の発生過程における微小重力影響のクリティカルポイントを探る点において、大きく進展した。 また、培養1日目から3日目にかけてそれぞれの日数において特徴的な変化を示す遺伝子群も明らかになりつつあり、概ね順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の結果を踏まえ、特徴的な変化を示した遺伝子群の整理を行い、タンパク質レベルでの発現変化およびアッセイなどを行う予定である。また、突然変異株等を用いて、今年度と同様にクリノスタットでの培養を行い、発現変化等を追うことにより注目する生体分子がクリノスタットによってどのように影響を受けているかを考察する。同時にGFPの導入あるいは蛍光標識抗体などにより形態観察を併せて行い、重力変化の影響を受ける生体内機構について調べる予定である。 過去の宇宙実験の結果から、宇宙での微小重力環境では筋肉構成分子群およびエネルギー代謝関連分子群の遺伝子およびタンパク質の発現レベルの低下、運動量の低下、脂肪蓄積の低下、体長の短小化などが観察されており、本実験でのクリノスタットによる重力変化で見られる体長の変化も宇宙での重力応答と共通するものかどうか見極める必要があるため、エネルギー代謝をはじめとする上記の項目についても調べる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
一部購入予定の試薬類について類似製品の比較検討を行っていたが、年度内の納品が困難であったため、次年度以降に購入することにした。
|
次年度使用額の使用計画 |
エネルギー代謝に関連したアッセイキットを使用することに決定し、次年度早々に購入予定である。
|