研究課題
本研究では生体の発生過程における重力の影響のクリティカルポイントを探るため、線虫を孵化直後から成虫になるまでの3日間にわたりクリノスタット上で成育させ、経時的に試料を取得した。各実験群からRNAを抽出し、DNAマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析を行い、各成育日数の実験群と対照群の比較から統計学的に2倍以上の変化のある遺伝子を抽出し、Gene Ontology解析を行った。1日目から3日目まで共通的に発現増加する遺伝子群として、小胞体アンフォールドタンパク質応答等が見いだされた。一方、全日にわたり共通的に発現減少する遺伝子については特徴が認められなかった。培養日数別での比較では、特に2日目に発現変化が多くみられた。軸索やアセチルコリン等神経伝達物質の代謝に関する遺伝子群は、2日目に発現増加、3日目に発現減少が見られ、免疫応答やタンパク質のリン酸化に関する遺伝子群は、2日目に発現減少、3日目に発現が増加する傾向が見られた。その他、2日目では、耐性幼虫の負の制御、微小管由来タンパク質の輸送、食行動の調節に関する遺伝子群の上昇、細胞増殖の制御に関する遺伝子群の減少、3日目では、細胞骨格関連遺伝子群が上昇し、プロテオソームユビキチンタンパク質の異化過程に関する遺伝子群が減少していた。並行して行った体長計測では、培養日数に関わらず、クリノスタットに供した線虫は有意義に体長が小さくなることを明らかにした。これらの結果から、線虫においては重力変化により、体形成・成長が阻害され、神経系の遺伝子発現が増加することにより、神経伝達物質を生産し、その後、タンパク質のリン酸化および脱リン酸化活性を高めることで、体内の代謝調整を行っていることが示唆された。また、時間軸に関係なく応答する小胞体アンフォールドタンパク質応答遺伝子群は、重力応答性遺伝子として重要な意味を持つ可能性が示唆された。
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