研究課題/領域番号 |
26507008
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
冨田 淳 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (40432231)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 睡眠 / 中心複合体 / 前大脳橋 / MARCM法 |
研究実績の概要 |
本年度は、ショウジョウバエの睡眠制御に関わる神経回路の同定を目的として研究を行った。我々はこれまでに、脳の中心複合体の扇状体に投射するドーパミンニューロンによる特異的な睡眠制御を明らかにしていることから、中心複合体に着目した。中心複合体が様々なパターンで欠損する突然変異体の睡眠を調べたところ、前大脳橋(Protocerebral bridge; PB)の一部が欠損する突然変異体において睡眠量の有意な減少がみられた。そこで、PBでGAL4が発現する13種類のGAL4ドライバー系統を用いて、高温になると開口するdTrpA1チャネルを発現させて、GAL4発現ニューロンを活性化させたところ、1種類のGAL4系統で睡眠量の著しい減少がみられた。GAL4の阻害因子であるGAL80を利用して、このGAL4系統のGAL4発現ニューロンのうちコリン作動性ニューロン以外で、dTrpA1を発現させて活性化させると、睡眠量の減少がみられなくなったことから、コリン作動性のGAL4発現ニューロンの活性化が睡眠量を減少させることが示唆された。次に、GAL4発現ニューロンのうち、どのニューロンが睡眠量の減少に寄与するのかを明らかにするために、MARCM(mosaic analysis with a repressible cell marker)法により、少数のニューロンにdTrpA1を発現させて活性化させたところ、顕著な睡眠量の減少を示すモザイク個体が複数得られた。睡眠を調べた後、各個体から脳を摘出し、dTrpA1と共発現させたGFPの蛍光を観察したところ、多くの個体でPBおよび中心複合体の他の部位への投射パターンが類似したニューロンが標識されていたことから、このニューロンの活性化によって睡眠量が減少すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
睡眠制御機構を解明するためには、それに関わる神経回路の同定が重要である。上述したように、本年度に行った研究により、睡眠制御に関わる新たなニューロンの候補を見出した。またその研究の中で、興味深い睡眠リバウンドを示すGAL4ドライバー系統を見出し、睡眠の恒常性維持機構に関わる細胞を同定できる可能性が示された。また本年度は、ショウジョウバエの睡眠制御に関わる新たな遺伝子として昨年度に同定した中性アミノ酸トランスポーター(NAAT)の解析も進めた。NAATを全神経でノックダウンすると睡眠量は顕著に減少するが、UAS-NAATトランスジェニックハエを作製し、成虫の全神経で過剰発現したところ、睡眠量の有意な増加がみられた。以上の結果が得られたことから、研究の達成度については、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
MARCM法により見出した、睡眠制御に関わるニューロンの候補については、中心複合体への投射パターンから、このニューロンと同じニューロンでGAL4を発現すると思われるGAL4ドライバー系統をすでに見出しているので、この系統を用いて、最終的に睡眠制御に関わるニューロンを同定する。また、同定したニューロンと、これまでに明らかにされている睡眠制御に関わる他のニューロンとの機能的・解剖学的な関係を明らかにする。特徴的な睡眠リバウンドを示したGAL4ドライバーについては、MARCM法により睡眠リバウンドを担うニューロンの同定を試みる。同定できれば、そのニューロンでのカルシニューリン活性やミトコンドリア動態と睡眠との関係を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に計画していた、トランスジェニックショウジョウバエの作製およびカルシニューリンと相互作用するタンパク質の同定を行わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に、トランスジェニックショウジョウバエの作製およびカルシニューリンと相互作用するタンパク質の同定を行い、使用する予定である。
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