本研究では、高校生に対して、睡眠を中心にした包括的な生活習慣教育を実施し、こうした保健教育が思春期の睡眠習慣、健康意識、精神的健康度(メンタルヘルス)に及ぼす影響について検証を行った。平成27年4~7月に協力の得られた16校の高等学校の生徒を対象にベースライン調査を実施した。調査方法は自記式質問調査であった。16校のうちの8校を介入群(先行群)として、平成27年9~12月に研究者らが高校生向けに作成した教材を用いて睡眠を中心にした包括的な生活習慣教育を実施した。この教育では1回5分間の保健教育を合計12回実施した。また、残りの8校をコントロール群(待機群)とした。平成28年4~7月に同じ16校の生徒を対象にフォローアップ調査を実施した。フォローアップ調査の内容と方法はベースライン調査と同一にした。2回の調査データが連結できた有効回答者は3010人であった。多重ロジスティック回帰分析にて、介入群とコントロール群を比較したところ、夜間覚醒、早朝覚醒、不眠の新規発症について有意な違いが認められ、介入群ではコントロール群に比べてこれらの症状の新規発症のリスクが有意に低くなっていた。以上の所見より、高校生に対する睡眠を中心にした包括的な生活習慣教育は、不眠に関連する症状の発症を抑制するものと考えられた。 また、ベースライン調査のみを用いてメンタルヘルスや不眠症の関連要因を検討した。その結果、うつ状態には、不眠症、睡眠の質が悪いこと、インターネットの過度な利用が有意に関連することが判明した。不眠症には、うつ状態と友人とのトラブルが有意に関連することが判明した。さらに、2回の調査データを用いて縦断的に寝坊による遅刻の危険因子を検討した。その結果、インターネットの過度な利用と朝食の欠食が、危険因子となることが示唆された。
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