研究課題/領域番号 |
26510002
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
丸谷 浩明 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (40419453)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 事業継続マネジメント / 東日本大震災 / 代替拠点 / サプライチェーン / 同業他社 |
研究実績の概要 |
東日本大震災を踏まえた中小企業にも有効な災害時の事業継続方策を研究するため、平成27年度は以下のような研究活動を行った。 第1に、東日本大震災で被災した後に早期復旧を果たした東北地方及び茨城県の中小・中堅企業を中心とする企業9社に対して、昨年度に続き現地ヒアリングを行った。ヒアリングの内容は、(1)被災の状況と復旧の状況、(2)被災を踏まえた事業継続の対応の改善、(3)現在の平常時の事業継続力の維持管理の状況である。その結果、昨年度の成果と合わせて、これら事項に関してほぼ十分な把握を行うことができた。 第2に、ヒアリング調査の成果を議論する機会として、研究代表者が主宰し、月1回開催している「企業・組織のBCP/防災勉強会(@仙台)」において、事業継続の先進的なアプローチを行っているヒアリング先の企業を講師に迎えることを含め、調査結果について意見交換を行った。 第3に、調査で把握できた早期復旧のための重要要素、すなわち、①経営者が即座に復旧行動を起こすこと、②代替拠点の確保には業界内のつながりが重要であること、③企業の早期復旧に地域の土地の嵩上げなどの復興事業に要する時間が支障になる場合が少なくないこと、などの点を学術論文としてまとめ、学会誌に投稿し、査読論文として掲載を果たした。また、被災地で行われた学会のワークショップで論文発表を行った。 第4に、これら調査及び意見交換の結果を踏まえて、中小企業にも分かりやすいBCPの様式集の素案を試作した。さらに、所属研究所の被災地内のサテライトオフィスの協力も得てこの様式集について議論する場を設け、地元企業、組織と意見交換会を開催した。その結果、2年度にわたって進めてきた研究の成果について、企業・組織の経営者・担当者からも一定の理解と評価を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災で被災し、実際に早期復旧を果たした企業への個別ヒアリングは、昨年度からの累計で20社近くとなり、他に調査に協力を得られなかった企業もあることから、残るヒアリング候補がほぼない状況に至った。そこで、これまでの調査で把握できた災害発生時の事業継続に関する重要要素、企業の早期復旧を実現させるための留意事項などを整理し、文献調査の結果も合わせて論文化し、地域安全学会の学術誌に投稿し、査読者からの貴重な指摘も得ることができ、査読論文として掲載できた。なお、他の学術雑誌への一般論文の中でも調査成果の一部を紹介した。 また、宮城県気仙沼市で開催された地域安全学会の「東日本大震災連続ワークショップ」において、執筆した論文を学会発表し、防災の専門家や地元関係者と意見交換を行うことができた。加えて、仙台で研究者代表者が主催しているBCPの勉強会(企業、行政、研究者が参加)でも論文内容に関する議論を行った。その結果、研究の成果について概ね良好な評価を得ることができた。 さらに、本研究の成果の一つとして作成する予定の、中小企業を主に想定した事業継続計画(BCP)の普及・啓発資料について、第一段階として、BCPに記載すべき重要事項を網羅する簡易なBCPの様式集を作成した。ただし、様式集に内容を埋めるだけで有効なBCPができるわけではないので、企業に説明しつつ意見交換をする必要がある。そこで、所属研究所の被災地における防災文化講演会活用し、地元事業者や行政関係者20名程度に対して試作した様式集に盛り込んだ事項やその意義などを説明し、意見交換を行って参加者から概ね理解を得ることができた。 そこで、平成28年度には、この様式を基礎として、分かりやすい説明や事例を入れて拡充を行っていくことにより、本研究の成果として想定している中小企業にも有効な普及・啓発資料を完成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度である平成28年度には、27年度に学術論文においてまとめた災害発生時の事業継続のための重要要素、企業の早期復旧を実現させるための留意事項などについて、事業継続の専門家、実務家等との意見交換会(仙台で研究者代表者が主催するBCPの地域勉強会を含む)を続け、重要要素・留意事項として追加すべき点、改善すべき点がないかを検討していく。 次に、昨年度から着手したBCPの普及啓発の資料の作成について、試作した簡易なBCPの様式をベースにこれを改善するとともに、先行例とは異なる文書化にこだわらない中小企業でもわかりやすいBCPの策定方法の説明、及び東日本大震災での企業対応を含む事業継続の取組の優良な先行事例などを盛り込んでいく。その際、多忙な中小企業経営者や他業務も兼務が多い中小企業のBCP担当者が負担なく取り組めるよう、資料の全体分量が多くなり過ぎないよう注意し、簡潔さに留意しつつ充実させていく。 そのうえで、この普及・啓発資料を代表研究者のHPに掲載し、上述のBCPの専門家、実務家等との意見交換の場でも提示し、内容の妥当性、有効性を議論していく。さらに、作成した資料案を、研究代表者と交流がある中央政府、地方公共団体の企業BCPの普及の担当者、経済団体のBCP普及担当者などにも提示して、意見や問題点の指摘を広く求める。加えて、希望する企業に対して、研究代表者が講師となり本資料案を活用したBCPの策定支援講座を試行し、そのフィードバックも得て、使いやすい普及・啓発資料を完成させる。 最後に、これら調査研究の成果は、残された課題なども含めて学術論文としてまとめ、関係学会で発表する。また、成果物は研究代表者のHPから公開し、また、研究代表者のBCPに関する講演・講義の場でも紹介することにより、社会に還元できるよう努める。
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