リーマンショックおよび東日本大震災という危機が組織にどのような影響を与えるのか、どのような組織が危機に対する耐性があるのかという観点の研究を行ってきた。そこでは財務体質などの基礎的な能力と、少数の信頼できるネットワークの存在が重要であることが分かった。このことを契機にして、その後中小企業のような小規模の組織に危機が訪れたとき、どのような変容を生じるのかという研究に展開している。その第一の方向としては、本研究はもともと特許情報などの客観的なデータを用いることを試みようとしたが、所在地の信頼性の問題から質問票調査に切り替えた経緯があったが、もともとの発想に戻って特許情報等から判別することができる大きなインパクトの影響に関する計測に再度試みた。具体的には特許訴訟を経験した中小企業が、その後どのような影響を受けるのかについて特許データによって評価を行うことを試みた。具体的には特許訴訟データを用いて、原告となる中小企業に着目し、特許訴訟が提起されて以降の特許出願数や引用情報などからその影響を推計した。この結果特許出願件数が有意に減少するが、特許の被引用数で評価される価値は逆に上昇すること、これらの影響は特に高額訴訟においては著しいこと、その影響は訴訟直後から一定期間認められるが、5年程度で元に戻ってしまうことなどが明らかとなった。この結果は共著論文として発表を行っている。また第二の方向としては、大学発ベンチャー企業に着目してその成長過程において訪れる危機にどのようなものがあるのかについて個別のベンチャー企業に対するヒアリング調査を通じて把握を行い、ベンチャー企業に訪れる危機にもいくつかのパターンがあり、そのような危機に対する耐性に関して、リーマンショックおよび東日本大震災における結果と比較を行っている。
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