本研究では漁村におけるコモンズ的なものを可能とし支える暮らしの基盤の成り立ちに注目し、漁村のもつ共同性のあり方を描き出すとともに、その価値と継承の可能性を模索した。最終年度は、前年度までの調査結果を地域の人々と共有するための意見交換会や地域の価値の再発見のための小さなアクションを主に行い、地域の磯根資源の有効利用、空き家が増加する中での集落の共同的な機能の維持と歴史的街並みとしての価値の共有を試みた。聞き取りやアンケートからは高齢化で採介藻に参加する住民が組合員の3分の1ほどになってしまっている現状から共同管理の部分を増やした方が良いとする意見や、他出者にも採介藻の機会を作ることで地域運営への参加を促せるのではないかといった意見が少なからずみられたが、意見交換会ではそのような意見の表明はなく、個人の意見が地区のそれとしてまとまっていくにはかなりの時間を要すると思われた。街並みについては「自分たちの集落の街並みは大したものではない」という見解が強い。そのため、調査地域と同様に地域の自然や歴史を映し出す素朴な集落景観をもち、その価値を地域の人たちが再発見することをとおして地区外の人との交流や地域活性化事業を推進している沖縄県国頭村への交流視察を企画し、次世代を担う40~60代の地区住民男女6人が参加した。地域のさまざまな資源を地域の人たちのもつ知恵と力によって生かし、身の丈サイズの、しかし本気の事業を進めている同地区の取り組みは大きな刺激を与えたようであった。また、地区の祭りに合わせ、空いた古民家を活用し街並みや地域の人々が働く写真の展覧会を開催し、地域の生業や街並みの価値について、改めて見直す機会を作った。上記取り組みは端緒についたばかりである。今後も、地区の資源についての調査を継続しながら、地区の人たちへのフィードバックと小さなアクションを続けていきたいと考えている。
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