2016年度は、福島県帰還困難区域内の2カ所の牧場(Y牧場、I牧場)で飼育・維持されている黒毛和牛について、皮膚にみられる多発性白斑の経過観察とともに、帰還困難区域外でみられた白斑牛についても調査を行った。さらに、長期間にわたる低線量被曝と疾病の因果関係を明らかにする目的で、黒毛和牛8例の病理解剖を行った。 Y牧場では6月に1例の新たな発症例を確認した。I牧場の14例のうち、白斑が重度にみられた1例では白斑数の顕著な減少と色調の減弱が認められた。帰還困難区域外である福島県二本松市および長崎県小値賀町でそれぞれ1例ずつ白斑牛の存在を確認してその調査を行ったところ、いずれも帰還困難区域でみられる白斑と病変が一致していた。以上の検索結果より、白斑は可逆的変化であり、空間線量が減少した今年度に新たな発症がみられ、さらに非被爆牛でも白斑が認められていることから、白斑の発症には被爆が直接的に関与している可能性は低いことが示唆された。 剖検を実施した8例のうち、4例を白血病と診断した。いずれの症例も血清中の牛白血病ウイルス抗体が陽性を示し、臨床的には起立困難、眼球突出などがみられた。肉眼的には、心臓、第四胃壁、脊髄硬膜外脂肪組織、眼窩内脂肪組織などに髄様腫瘍性病変が認められた。組織学的には、異型性を示すリンパ球様腫瘍細胞が病変部に充実性に浸潤、増殖しており、それらは免疫組織化学的にBLA-36、CD20、CD5に陽性を示し、CD3に陰性であったことから、B細胞性リンパ腫と診断した。これらの検索結果より、放射線誘発性白血病を否定し、従来報告されている地方病性牛白血病と診断した。その他、1例では巨大な腎周囲膿瘍がみられ、3例には著変は認められなかった。いずれの症例にも被爆の影響を示す病理学的な所見は一切認められなかった。
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