研究課題/領域番号 |
26511006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
二瓶 直登 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (50504065)
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研究分担者 |
杉山 暁史 京都大学, 生存圏研究所, 准教授 (20598601)
古川 純 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (40451687)
山田 哲也 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (70374618)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / ダイズ |
研究実績の概要 |
ダイズのCs吸収に及ぼす要因やメカニズムに関する試験を行い、下記の知見が得られた。 TK780とB01167の組換え近交系(96系統)を用いて、137Csおよび22Na、54Mn 、86Rbの吸収と地上部への移行のQTL解析を行った。Cs吸収、地上部の移行に関して高い作用のQTLが数個検出された。Csの吸収はRbと極めて高い相間がみられた。 異なるK濃度溶液で栽培したダイズのCs吸収や、GmHAK5の関与について検討を行った。地下部の137Cs濃度は生育時のK濃度が低濃度では高く、高濃度では低くなった。GmHAK5の発現は低K濃度で栽培したダイズで高く、K濃度が高くなるにつれて低下した。GmHAK5を導入した酵母は野生株に対し低Cs濃度の培地から生存できなくなり、Cs感受性を示した。GmHAK5を導入した酵母のCs吸収は、野生株より増加することを確認した。 生育期間に時期別にCsを与え、各器官のCs蓄積量を検討した。ダイズのCs吸収量は登熟するまで増加し続けた。特に生育後期高い吸収が示唆され、イネとは異なるパターンが示された。各時期に吸収したCsは吸収直後~登熟の間に根、茎、葉柄から減少した量と、莢と子実で増加した量とがほぼ一致したことから、子実に蓄積するCsは主に根、茎、及び葉柄から転流したことが示唆された。 また、窒素施肥によるダイズのCs吸収の影響を検討した。窒素施肥濃度の異なる条件で栽培した結果、ダイズ(の放射性Cs濃度、吸収が窒素施肥により増加することを確認した。アンモニウム施肥で土壌から抽出される放射性Csは増加したため、ダイズのCs吸収が増加したのは、土壌固相に強く収着していたCsを、Csとイオン半径の近いアンモニアが置換し、ダイズが吸収しやすいCs量を増加したことが一因と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)品種系統:安定同位体133Csを指標に用いた品種試験は、子実中の133Csは極微量であり、反復間のバラつきが大きいため、QTL解析に供することができなかった。分解の方法から見直し、安定した解析結果が得られる手法も確立することができた。サンプルとなる子実は2カ年分得られており、今後解析に用いることができる。137Csを用いたCs吸収に関するトレーサー試験は、多核種で多くのサンプルを同時に実験する実験系を確立し、QTL解析を実施した。Cs吸収に関する有意なマーカーを得られており、計画は順調に進んでいる。 (2)遺伝子探索:シロイヌナズナを参考にしたダイズのKトランスポーターのうち、生育時培地のK濃度に反応して発現量が異なる遺伝子を見出した。さらに、その遺伝子を抽出後、酵母に導入してCs吸収に関する機能解析を行い、Cs吸収も確認しており、計画は順調に進んでいる。 (3)Cs吸収:現地圃場での栽培試験は野生のサルやイノシシによる食害がひどく進んでいいない面もあるが、137Csを用いたトレーサー試験や133Cs安定同位体を用いた試験により、時期別にCsを投与する実験によりダイズのCs吸収パターン、子実への転流割合等が明らかにした。また、Csと同族元素のKとの吸収競合、K濃度の異なる培地で栽培したダイズのCs吸収量の違いなどを明らかにしている。さらに、多量必須元素の窒素のCs吸収に与える影響を明らかにしており、計画は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
汚染された地域でダイズ栽培を復興するため、これまでに明らかになったことを踏まえ、以下の点を明らかにする。 (1)品種系統:遺伝型が異なるRILラインを用いた吸収試験、または子実の133Cs蓄積分析で得られる試験結果をもとに、有意なQTLが得られたマーカー付近において、さらに詳細なSSRマーカーを設定しジェノタイピングを行い、候補遺伝子を絞り込む作業を行う。 (2)遺伝子探索:Cs吸収機能が示されたGmHAK5についてヘアピンループを介したRNAiにより共通配列に基づき対象遺伝子をノックダウンした系統を作成する。作成したGmHAK5ノックダウンダイズについて、137Csを用いたトレーサー試験や被災地土壌を用いた栽培試験等を行いCs吸収の評価を実施する。 (3)体内挙動:吸収に関してはKと関連が高いことが示されているが、体内に取り込まれたCsの挙動は不明な点が多い。地下部から地上部、葉から子実などのダイズ体内のCs挙動について、養分欠乏時、各部位における他元素との挙動に着目して、137Csや42K、45Caを用いたトレーサー試験や、養分条件を変えたポット試験等を実施する。なお、共生する菌の関与に関しては、圃場での栽培が管理ができること(鳥獣害被害が抑制できること)を確認の上、実施する。
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