研究課題/領域番号 |
26512010
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研究機関 | 新潟県立大学 |
研究代表者 |
田口 一博 新潟県立大学, 国際地域学部, 准教授 (20376411)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地方議会 / 会議規則 / 先例 / 会議録 / 議事録 / 議会運営 |
研究実績の概要 |
平成27年度は引き続き京都府(現)京丹後市、北海道津別町、徳島県(現)那賀町、高知県(現)四万十町、福岡県(現)久山町等に所蔵されている議会会議録・会議規則等の撮影による収集を進めるとともに、平成26年度の調査で浮かんだ1946年から50年ごろまでの戦後改革初期に議会制度等がどのように解説されてきたかの資料収集を行った。 会議や議論の進め方については、戦後改革で重要課題とされた学校や労働組合といった分野でも解説が行なわれていることもわかり、議会のあり方と比較検討する意味でそれらの文献調査も行った。研究により判明した戦後改革の受容については日本政治学会と日本地方自治学会の研究大会、主宰する放送大学ガバナンス研究会でも報告した。 それぞれ置かれている状況の異なる各町村に共通の事項として、町村議会の運用を定める会議規則は、戦後、地方自治法制定当時に内務省から発出された「模範会議規則」がまず全国に通知されて施行されるも、各府県(知事部局)の通知した模範会議規則に置き換えられ、それが全国町村議会議長会の標準会議規則によることとなっていったと推定できる。しかし会議規則と実際の運用を会議録によって対比すると、必ずしも会議規則のとおり運用されている訳でもなく、各町村ごとに積み重ねられてきた明治以降の運用によっていることがわかった。戦後改革による新制度としての常任委員会ではこの差が明確なものとしてなっており、国会法に準じて考えられた制度の消化が難しく、実際の運用は会議規則等とはまた別に行われていたことが多かったと断じざるを得ないようである。 全国一律に制定される法律や全国団体が発出する準則は確かにその通りの対応がなされている。それは道府県段階の議長会が行う研修等を通じての努力の結果であるが、現場から遠い場所で決められた制度は、地方議会の状況によって選択的に受容されているのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
収集済みの議会先例集の電子化及び研究協力を求めて新規に収集する各議会の会議規則・会議録の撮影等については、おおむね順調に進展している。なかでも保存が確認できなかった全国団体の「標準」会議規則の改正経過について、送付を受けた町村側において複数その内容を確認できたことは研究の空白域を埋める成果であり、原資料を探索することのみで得られる成果といえる。 本研究では、議会における実質的な議論が行われてきただろうと想定できる多様な住民が居住する開拓地、外部との交流が盛んな港町・商業集積地等の議会から資料収集を着手してきたが、多様な議会運営の実態を見ることで比較研究の観点が弱い「郷土史」「行政史」の観点にはなかった「比較議会制度・運用史」とでもいうべき新しい研究領域が見えてきたと感じている。 他方、全国ほぼ条文上は一律である会議規則によっているにも関わらず、多様な議会運営が行なわれているのはなぜか。今のところ各議会の明治期以来の伝統でに由来することは同一議会の長期にわたる会議録等から読み込むことができたが、会議録情報を定量的に把握することは困難である。したがって研究構想当初想定していた定点としての先例とは、より動的な過程を含めて認識すべきではないかと考えるに至っている。 未開拓領域であることを意識して開始した研究であるが、掘り出した問題は非常に大きい。平成27年度の研究では手を広げてやや拡散気味の研究活動となった感もある。最終年度に向けて、ひとまず成果を整理するように努めたい。 なお、収集して撮影画像の増大により、当初用意した記憶装置では容量不足となり、機器の買い増し・整備の必要が年度末において発生した。これも各議会の協力を得られたことによるが、生のデータをインターネット上で公開するためにはさらに強力な設備の必要が生じているため、今後は手法を検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は最終年度であるので、当初の研究実施計画に掲げた議会先例データベースが運用できるように準備を進める。 年度前半は収集を開始した議会の会議録情報をより完全なものとするようにすべく、撮影作業を進めたい。また、その中で未確認資料の掘り起こしにも引き続き可能な限り取り組みたい。 年度中期からは研究のまとめを開始する。本研究はこれから水平的な発展(開発した地方議会に保存されている議会先例・会議録等の撮影・整理方法の標準化手法を普及させ、各地でだれもが行うことができるようにすること)と垂直的な発展(「標準」会議規則の浸透方法とその理解がどのように進められていったかの比較検討、会議規則の効力とその限界を実際の会議例において示すこと)の2方向のまとめを想定している。 年度後半は議会先例公開サーバーの試験運用を開始する。前述のとおり想定以上の資料収集が行えたので、全部を一度に公開することは困難であるが、まず収集先例集から運用を開始する予定である。その後、先例集と関連付けた会議録等も含めた公開が行えるよう、設備の増強等を図りながら進めて参りたい。 研究遂行上の課題はそれほど多くはないが、研究成果である先例・会議録の公開については、若干検討すべき問題がある。議会の会議録の作成は旧制度以前の明治初期から行なわれているが、当時の記載内容には今日の人権意識からすると妥当と言い難いものが含まれていることもある。これは国会の会議録や既に刊行された書籍等と同じことではあり、地方議会の会議録に固有な問題ではないが、一定のガイドライン等考え方をまとめておくことも必要であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料撮影等にかかる旅費、謝金について、平成28年2~3月に実施する予定であったが、学内事情により直前まで出張・雇用手続き等をとることができなかったので、科研費の支出対象としては行うことができなかったことにより、当該経費相当分を平成28年度に使用することとしたものである。 なお、後日日程調整が可能となったため、私費により予定していた3件の調査を実施した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に予定していた調査については、上記「理由」のとおり実施できているため、平成28年度においては調査協力団体に対する研究成果の還元等に関する経費に充当する予定である。
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