2016年度は会議録・議案・議会例規等の収集を単独議会から県域議長会にも広げて行い、議会先例の保存・公開準備を進めたほか、得られた知見を論文、研修等で社会に還元した。 3カ年の研究期間で得られた知見は、 1)地方自治法や会議規則準則等の戦後改革による全国一律の制度が地方議会の運営に与えた影響は限定的で、明治以来の各議会の運営の積み重ねの結果が大きい。 2)町村議会では郡・都道府県域の議長会があり、ボトムアップ型に全国組織を形成している。議会運営上の問題が起きた時には当該議会の先例が参照されるより議長会に照会して対応を決めている。 3)他方、地方議会には上級庁の概念はなく、自律的である。行政部門と異なり、法令所管庁や国会・都道府県の議会・行政部門に照会する慣習はあまりない。 4)郡制度があった明治~大正期には郡庁が議会からの報告を受けて法令解釈等について指示を行うことがあり、戦後初期まで、道府県の出先機関が同様の活動をしていたが、それらの機能は昭和30年代以降、議長会に移って行く。 5)議会運営を熟知した長期在籍者が先例等を整理することがあるが、異動により忘却されるなど、人に負うところが非常に大きい。 等である。 従来の地方議会研究は全国の議長会が作成した統計数値や会議録から単独議会の通史を作ることが主であった。しかしそれらからでは地方の政策決定の場として、議会がどのように活動すべきか、という指針は得られないように思われる。議会や議長会の先例形成を調査した本研究からは、議会のあり方や政策決定がいかように行われるのかも浮き彫りになったほか、戦後最初期の変革期の検討から議会を機能させるための議会間連携や議員以外の参加の重要性を確認することができた。今後は平成の合併により失われようとしている議会関係資料の利用による成果を周知することで、地方政治史の研究と資料保存を呼びかけたい。
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