研究課題
高齢者数増加が確実視される将来の社会では、高齢者の多様化が予想される。この多様化の医学的・生物学的見地からの理解にはモデル動物が必要だが、国の内外に関わらず、まだ未開発である。申請者は、ストレス防御と造血発生の研究をゼブラフィッシュ遺伝学を活用して行い、独自の成果を挙げてきた。この過程で、ゼブラフィッシュが老化研究の集団解析に、倫理的・経済的に有用であると認識した。本研究は、老年学におけるモデル動物として、ゼブラフィッシュ活用の有効性調査と解析系確立を目的とする。これまでに、ゼブラフィッシュ個体の識別法の確立、ゼブラフィッシュの老年度の測定手段の構築、及び、野生型種を用いた同居匹数など応じた老年度の観察を行ってきた。その結果、識別法は確立し、測定手段も一部を除き構築できた。老年度測定に関しては、これまでのところ、同居匹数などに応じた優位な差は観察出来ていない。一方、研究代表者がここ十数年研究を続けているNrf2システムという生体防御能機構が、老化や健康寿命に密接に関係することがこの2,3年で急激に明らかになってきた。同時に、このシステムが、逆にがんの進行を促すネガティブ因子の側面をもつことも明らかとなった。そこで、研究代表者は、Nrf2システムを上手に活用して健康寿命上げる方策を、ゼブラフィッシュを用いて探索することにした。本年度は、Nrf2システムを活性化する各種機能性食品の有効成分が、ゼブラフィッシュの健康にどのような影響を与えるかを、Nrf2変異ゼブラフィッシュを駆使して調べた。その結果、ある種のストレス防御には有効だが、他のストレスに対してはむしろ共毒性を発揮するものを見いだした。このことは、Nrf2システムは、ただ活性化すればいいというものではなく、上手く活性化させることが重要と示唆された。
2: おおむね順調に進展している
老年度測定システムはほぼセットアップされ、実際に測定を開始することができた。また、Nrf2システムと健康度の解析を行い、その活性化の仕方の重要性を示すことができた。さらに、がんモデルとなることが期待される、Nrf2を遺伝学的に常時活性化する遺伝子改変系統の作出にも成功した。一方で、野生型系統を用いた解析では、飼育方法の違いによる老年化の変動を見出すことはできなかった。そこで、現在、老化しやすいと期待されるNrf2ホモ変異系統の大量育成を行い、次年度にはこれを用いた解析を行うことを計画している。
Nrf2ホモ変異系統の雄が十分揃ったので、これを老年度測定を開始する予定である。一方、Nrf2システムが常時活性化する遺伝子改変系統を作出できたので、これを大量に増やし、健康寿命は伸ばすががん化は抑制されるという飼育条件を探していきたいと考えている。この目的のために、がんになりやすいTP53変異系統との交配も検討している。一方、Nrf2を上手く活性化する健康食品の探索も引き続き行っていく。
年度末に支払うことになった論文投稿料の支払い用に、諸費用及びレートの関係で正確な金額がわからなかったため、予想計算値より数万多めに繰り越し金として残しておいた。予想より若干安価であったため、結果的に6万円強の繰越になった。
今年度も論文投稿する予定であるので、その費用に使う計画である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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