高齢者数が増加する将来の社会では高齢者の多様化が予想される。この多様化理解のためのモデル動物が乏しい現状を打破するために、本研究ではゼブラフィッシュ活用の有効性調査を目的とした。そのために、1)ゼブラフィッシュ個体の識別法確立と老年度測定手段の構築、2)雄雌魚同居や老若魚同居の老年度に対する効果の観察、3)Nrf2遺伝子破壊による老年度の促進効果の観察、を行った。 成果は、1)でまず蛍光色素注入により個体識別を可能とし、次に運動力(動きの素早さ)・聴力(聴き取れる周波数)・学習力(電気刺激に対する回避能)を定量的に測定する解析システムを構築した。 2)では、老雄魚単独もしくは老雄魚と若雄魚を同居させた場合より、老雄魚と若雌魚を同居させた方が老雄魚の健康度が維持される傾向を見出したが、有意と言えるデータにはならず、解析数増大を含めたより大規模な研究をする必要性が浮かび上がった。 そこで同居解析は一旦あきらめ、野生型より健康寿命が劣ると予想されるNrf2遺伝子破壊系統を活用し、老年健康度とその分子メカニズム解明にチャレンジすることにした。Nrf2はヒトを含む脊椎動物がもつ健康維持装置Nrf2経路の主要因子で、老化や健康寿命に密接に関係することが近年明らかになっている。まず野生型を用いた月齢の違いを比較した健康度測定では、12ヶ月成魚がより若い魚と比して高周波音に対する応答がにぶくなることが見出され、ゼブラフィッシュにおいてもヒトと同様、聴力の衰えが最初にくることが示唆された。運動力や学習力に関しては明快な違いは見られず、これがNrf2変異の影響でどう変わるかを観察したが、8ヶ月齢成魚の段階では違いを見いだせなかった。 本研究では老年学研究におけるゼブラフィッシュの有用性を示唆するデータを一部示すことができたが、一方で、研究をより大規模にする必要性も浮かび上がった。
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