非局所的結合を持つ興奮-抑制系である甘利神経場モデルを用いてマウス全半球の膜電位ダイナミクスを解析しました。具体的には、脳科学の問題として自発活動時の膜電位伝播波の現象分析を、さらに数理科学の問題として神経場の標準モデルを研究しました。英国University College Londonで、マウス全半球神経活動の計測実験を行っている嶋岡大輔(海外研究協力者)は、マウスの睡眠から覚醒までの間の神経細胞膜電位の自発活動に規則性をもった伝播波が存在することを発見し、現象論的な普遍クラスの存在を示唆しました。本研究の特色はこれまで実験で現象を検証することが不可能な抽象モデルであった甘利神経場モデルを、嶋岡の協力を得て実験脳科学に貢献しうる神経場ダイナミクスの標準モデルに昇華させるという点にあります。具体的な研究結果としては、自発活動時の膜電位伝播波の動的な頑健性、スポット解の生成系(パルサー)が長距離結合によって構成可能であり、このパルサーが結合の長さに比例する特徴的周波数を持つ性質を数値実験で示しました。また空間的に非一様な形を持つ神経場ダイナミクスを考えると、その幾何構造がスポット解の安定性と分裂プロセスに影響することがわかりました。神経場の曲率が一定であるなど、単純な形状の場合には数学的な理論が存在し、ネットワーク表現される非局所結合が非一様な曲率を持った神経場と数理的に同等の効果を持つことがわかりました。これらを踏まえて、より現実的な脳の形状および学習過程を導入したモデルを構築しました。論文は出版準備中です。さらに極値統計解析の手法に関するレビュー論文を出版し、この解析を神経場ダイナミクスの解析に応用する論文を執筆中です。
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