シロイヌナズナの葉表皮細胞がジグソーパズル状に変形するメカニズムについて、数理モデルをより現実的なものに発展させた。細胞の局所的成長を制御するROP GTPaseの機能をモデルに組み込み、2種のROPが、相互抑制により細胞壁の両側に背中合わせに分布し、隣接する細胞のどちら側に突出が起こるかが決まる様子の表現に成功した。一方、連携研究者の観察から、ROPの局在化を司るric1の機能欠失変異株でも細胞変形が起きることが観察され、従来のROP機能を軸としたメカニズムでは説明できないことが明らかとなってきた。本モデルでは、ROPの局在化が見られない場合にも、細胞壁の成長による座屈として細胞変形が起きることを予測しており、ric1変異株での表現型を説明すると共に、座屈が細胞変形の根本原理になりうる可能性を示唆した。また表層微小管の配向に応じて細胞の異方成長が促進された場合には、細胞壁の湾曲程度が減じることも再現できた。この研究成果はPlant Cell Physiol.誌に発表した。 上述の成果において、湾曲の波長は、野生株ではROPの局在により決定し、ric1機能欠損株では細胞の力学的特性により決まる。実際には、ROPの相互抑制と細胞変形とが相互作用しあいながら決定すると考えられる。そこで、細胞壁を反応拡散場とし、場の変形と相互作用によりROP2とROP6の分布が変化することを表現した改変モデルに取り組んだ。これにより、細胞形状が多角形を示す成長初期にはROP分布の波長が短く、成長と共に波長が長く変化していくことや、様々な変異株の細胞形状を説明することができる。今後各パラメータがどのように湾曲パターンを変化させるか詳細に調べていく。 本研究課題で構築した数理モデルのフレームワークを応用して、葉表面の隆起や茎の変形、根毛の形状変化を説明するモデルを構築しており、論文執筆中である。
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