本研究の対象である根寄生雑草は,世界中の乾燥地農業に甚大な被害を与えており,アフリカでの食料生産の不安定化を引き起こす最大の生物的要因と言われている.本課題では,この問題の克服のために根寄生雑草における特徴的な代謝経路を標的とする防除法の確立に向けた研究を行った. 申請者らはこれまでに発芽過程のメタボローム解析によって,プランテオースという三糖が根寄生雑草の貯蔵糖として重要な役割を果たしていることを明らかにした.また,この代謝酵素を阻害することで,その発芽が特異的に抑制されることを明らかにした.そこで,本課題では,未だどの生物においても報告例のないプランテオースの分解酵素を明らかにすることを最初の目的とした. トランスクリプトームデータより,プランテオース中の α-ガラクトシル結合を加水分解すると考えられる酵素遺伝子の絞り込みを行い,これを大腸菌にて異種発現させ,その活性を調べたところプランテオースの加水分解活性を検出することに成功した.また,その活性は酸性で顕著であったことから,根寄生雑草の発芽種子中でプランテオースは液胞やアポプラストなどの酸性区画で加水分解されていることが示唆された.これは,その酵素タンパク質の N 末端がシグナル配列と予測されることと一致した. また,これまでにプランテオースの二段階目の加水分解を触媒するインベルターゼがノジリマイシンによって間接的に阻害されていることを明らかとしていたため,その分子機構の解明を目指した.酸性インベルターゼの部分アミノ酸配列を抗原とする抗血清を用いたウェスタンブロットの結果,ノジリマイシンはインベルターゼのタンパク質発現にはほとんど影響を及ぼさないことが明らかとなり,インベルターゼの翻訳後の活性化機構を阻害している可能性が示された.今後,このこれまでに知られていないインベルターゼの生理活性について詳細に検討する予定である.
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