研究課題/領域番号 |
26520312
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研究機関 | 国立研究開発法人 森林総合研究所 |
研究代表者 |
藤井 一至 国立研究開発法人 森林総合研究所, 立地環境研究領域, 主任研究員 (60594265)
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研究分担者 |
早川 智恵 東京大学, 農学生命科学研究科, 研究員 (10725526)
磯部 一夫 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (30621833)
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研究期間 (年度) |
2014-07-18 – 2017-03-31
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キーワード | アミノ酸 / 懸濁態物質 / 溶存有機態窒素 |
研究実績の概要 |
我が国の中山間地に多く存在する森林・水田の地目連鎖系では、森林は下流域へ養分を供給する機能を果たしてきた。特に塩基性陽イオンの供給は「地質学的施肥作用」として知られる一方で、窒素の供給機能は低いと考えられてきた。しかし、渓流水の窒素フローには無機態窒素だけでなく懸濁態・溶存有機態の窒素成分が重要な割合を占めるという報告もある。そこで、森林・水田土壌におけるアミノ態窒素フローの実態と湛水条件下の水田における窒素成分の無機化能を検証した。 森林・水田における窒素成分の移動量を定量評価するため、富山県上市町、京都府宮津市(棚田)の森林-水田系において土壌水、渓流水、田面水を採取し、有機態N(アミノ酸)、NH4+、NO3-濃度を分析した。また、窒素の無機化特性を調べるため、アミノ酸、アミノ糖の分解試験を実施した。14C標識グルタミン酸(アミノ酸)、グルコサミン(アミノ糖)、尿素、グルコースを異なる濃度で土壌へ添加し、14CO2放出速度を測定した。 渓流水、灌漑水中の無機態窒素は硝酸イオンが主体であるものの、降雨イベント後には高濃度の懸濁態物質が検出された。また、森林土壌の微生物代謝によって放出されやすいアルギニンなどのアミノ酸も低濃度で含まれており、有機態窒素もまた森林から水田へと移行することが示された。14Cトレーサーを用いた無機化速度は尿素>>アミノ酸>グルコース>アミノ糖の順であった。アミノ酸・アミノ糖の無機化速度は近接する森林・水田の間で違いは小さかったが、水田の尿素の分解速度は森林よりも有意に高かった。 森林-水田連鎖系において、森林由来の有機体窒素成分が渓流水によって水田に供給されること、水田であっても土壌水中のアミノ酸・アミノ糖由来の炭素は速やかに無機化されることが示された。研究成果の一部は日本土壌肥料学会、カナダで開催された国際学会ISMOM2015において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
土壌水、渓流水、田面水中のアミノ酸濃度の分析を終えたことによって、森林から水田への窒素供給機能の全容が解明されつつある。研究成果は研究成果は、日本土壌肥料学会シンポジウム「土壌の物質循環機能を多角的にみる-最先端手法が切り拓く新たな姿」において発表した。また、成果の一部は著書『大地の五億年 ~せめぎあう土と生き物たち~』(山と渓谷社)においても情報発信し、日本経済新聞、毎日新聞、しんぶん赤旗の取材を受けた。
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今後の研究の推進方策 |
現場で取得している窒素フロー(イネの養分吸収量、窒素収支)および気象・土壌環境データ(温度・水分、酸化還元電位、pH)とともに、土壌水、渓流水、田面水中のアミノ酸の組成と微生物代謝のデータを取りまとめ、森林が水田肥沃度に果たす窒素供給機能について総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
アミノ糖の成分分析の依頼および現地観測に用いるパソコンの購入を翌年に繰り越したため。
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次年度使用額の使用計画 |
現地観測に用いるパソコンの購入に充てる。
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