研究実績の概要 |
本研究の目的は,ゲーム意味論の手法を用いて,高い表現力の形式体系を提案し,その記述力や複雑さに関する高次計算論(higher recursion)的な考察を行いながら,逆にその体系を用いて不完全情報ゲームやネットワーク推論の特性を考査するものである.初年度においては,必勝法が計算不可能で,勝利者もエフェクティブには決定できないゲームを定義する決定性プッシュダウンオートマトンの亜種が存在することを示し,その結果を証明論におけるWeiermannの相転移と比較し,決定問題の相転移現象として捉える見方を提唱した.次年度は,その考察を発展させ,様々な受理条件を伴う非決定性プッシュダウンオートマトンによって定義されるゲームに対して,必勝法の計算不可能な度合いを逆数学的方法によって特定した.本年度においては,その結果をさらに精錬し論文に仕上げて,専門誌に投稿した.また,ゲーム木のランダム入力に対するクエリ複雑さに関する研究を進めた.どんな乱択アルゴリズムも最悪の入力分布に対しては決定性アルゴリズムの期待値よりも効率が良くならないというYaoの原理が有名であるが,特に各入力ビットに0,1 が割り振られる確率が独立である場合について複雑性を最大にする分布の特性について様々な考察を行った.またランダム決定木のラスベガス複雑性に関する「SaksとWigdersonの予想」に対する否定的解が最近発表されて,それと量子決定木が関わることが明確になったので,量子複雑さに対し測定ベースの量子計算の視点から考察を進めた.最後に,グラフ上の確率混合戦略の複雑さを調べる過程で有効性が確認されたμ計算について,高次計算論の視点でその階層構造を調査し,プレプリントを作成すると共に,それらの成果を発展させる将来の研究計画を検討した.
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