近年,緊急搬送される熱中症患者が急増するなど,熱中症の予防や早期検知が社会的に大きな課題になっている.深部体温を常時計測することが熱中症の予防において有効であるが,直腸や鼓膜など活動中の測定が困難な部位での体温測定が必要である.そこで,本研究では腕時計型センサなどでリアルタイム計測可能な心拍数と皮膚温度を用いて,身体の熱移動をモデル化したGagge の生体温熱モデルに基づき,深部体温を高精度に推定する.生体温熱モデルには,発汗量や血流量など個人差や体調による差異が大きいパラメータが複数存在する.提案手法ではユーザに適したパラメータを特定するため,これらのパラメータ値を網羅的に生成し,リアルタイムに計測している皮膚温度に最も近いパラメータ値の組を特定することで,個人差を考慮した深部体温推定を実現する.本研究では日射によって受ける熱量を生体温熱モデルで考慮するため,幾何的なモデル化を行った.実際に暑熱環境下で7人の歩行データを合計94時間分収集して性能評価を行い,モデルの標準パラメータを用いる場合と比較して深部体温の推定精度を最大12%向上できることを確認した.また,日射を考慮することで推定精度向上が見られたが,皮膚温度における実測とシミュレーションの上昇傾向の違いによりその効果は限定的であることが分かった.
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