本研究は、電子ペンや教育での電子化が推進される中、学習つまずきをオンライン手書きデータ(時系列で得られる手書きデータ)から自動発見する手法を研究し、以って近い将来実現するであろう効果的な個別学習の実現に供することを目指した。 今年度は、前年度の成果(学習つまずきを発見するための特徴量抽出)を基に、33名の大学生(男性27、女性6)による実証実験を通した「数学を対象とした個別学習への応用」を実施した。具体的には、「数学では、解答へと至るまでの過程が複数存在する問題がある」「数学では、解答過程の記述が学習者に求められる」「学習者の解答戦略から、学習者個々の苦手とする点を分析できる」という前提のもと、多項式展開問題と幾何問題を題材に、解答を戦略別に自動分類し、もって学習つまずきを持つ学習者の自動抽出を試みた。 多項式展開問題では、手書きで記述された答案の「戦略距離(解答戦略が近いほど小さくなる距離)」を算出し、答案を戦略ごとに分類する手法を提案した。当該手法では、答案のオンライン手書きデータを解答ステップごとにグループ化する。次に、各解答ステップ同士の距離を算出し、答案同士の戦略距離を算出し、戦略ごとに分類(階層クラスタリング)する。評価では、人間の手動分類結果と比較した。4問題による評価では、F値0.5~0.7を達成し、提案手法の有効性を確認した。 幾何問題においては、角度を求める図形問題を題材とし、手書き解答データを「図への描き込み」により分類する手法を提案した。図への描き込みを、補助線、角度記入、辺上マーク、線長・比の4つに分類し、これらの特徴量をもとにk-means法により分類を行い、F値0.7を達成した。 以上、数学を対象とした自動的な解答戦略分類を行うことにより、解答戦略につまずきの原因があるかどうかを判定でき、効果的な個別学習へ応用可能であることを示すことができた。
|