研究課題/領域番号 |
26540054
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
鵜野 克宏 茨城大学, 工学部, 准教授 (10280710)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 視覚復号型暗号 / スペックルパターン / ランダムグリッド / 秘密分散 |
研究実績の概要 |
平成26年度の計画に関して、光源、散乱体の材質、光学系の配置、画像の分散法、および画像再生法に関する実施状況について報告する。 光源はレーザー光を用い、平均粒径の異なるスペックルを作成するため、その照射面積を変化させた。偏光面は、散乱体を斜めに照射することから、反射率が大きくなるように入射面に対して垂直な偏光とした。 散乱体は表面テクスチャの異なるフォトペーパーとコピー用紙を用い、コンピュータによって作成された十分に発達したスペックルパターンのヒストグラムと比較した。その結果、コピー用紙によるスペックルパターンの方が、十分に発達したスペックルパターンに近いことが分かった。 光学系の配置は、光源をレンズで絞って散乱体に当てることにより、適度な粒径を持ち十分な明るさのスペックルを作成することができた。また、散乱光が平行に重なることにより理論的な解析が容易になるため、レンズを用いて散乱光をコリメートするような配置にした。 画像の分散では、スペックルパターンを2値化して、従来のランダムグリッド法と同様の2値論理によって、画像をほぼ完全に秘匿できることが明らかになった。その際、2値化されたスペックルパターンの白と黒の割合が50%であることが、画像秘匿の必要条件であることが分かった。さらに、レーザー光がガウシアン分布であることに起因するスペックルパターンの輝度斑に対して、スペックルパターンを幾つかのセクションに分割し、それぞれに異なる閾値で2値化し、局所的に条件を満たすパターンを作成することにより、画像のほぼ完全な秘匿に成功した。 分散画像の復元では、2値化された分散画像と元のスペックルパターンをコンピュータ内で積を取った結果、秘密画像を復元することができた。したがって、実験系でスペックルパターンを照射することによっても、秘密画像の復元が可能であるという有力な根拠を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究実施計画についてその達成度を評価すると: レーザー光源を粗面に照射し、スクリーン上にスペックルパターンを発生させることは、レーザーダイオード、紙およびスリガラスを用いて達成した。ランダム画像を取得することは、スリガラスに映ったスペックルパターンをカメラに取り込むことにより達成した。スペックルの精密な位置決めは、レールに固定した精密な移動ステージを用いた光学系により達成した。スペックルのコントラストおよび平均粒径を変化させることは、ピンホールによる照射ビーム径の制御、および粗い紙を用いることにより達成した。ランダム画像の最適化は、スペックルパターンの分割2値化により達成した。材料の最適化は。2種類の材質の異なる散乱体からのスペックルパターンのヒストグラムを、理想的なスペックルのヒストグラムと比較することによりほぼ達成した。照明条件の最適化は、結像系スペックルと回折系スペックルを比較することによりほぼ達成した。画像の秘匿は、スペックルパターンを2値化し、セクションに分割して局所的に白黒割合を50%にしたランダムパターンを用いることによりほぼ達成した。合わせて、2値論理に依存しない画像の秘匿方法についても検討したが、画像を完全に秘匿できるアルゴリズムの発見には至っていない。レーザーの偏光面や、レンズ伝達関数の検証は、スペックルの明るさに影響を与えることを確認したことによりほぼ達成した。画像の復元は、2値化された分散画像と元のスペックルパターンの積から秘密画像が復元できることを確認したことによりほぼ達成した。 これら各項目の達成状況から判断して、当該年度の研究目標は概ね達成されたと判断される。ただし、連続画像を秘匿できるアルゴリズムの発見には至っていないことから、当該計画以上の進展があるとは認められない。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、2値化したランダムパターンをスクリーンに投影し、スペックルパターンを照射することにより、実験的に画像の復元を行う。その際、自動ステージを用いて精密な位置合わせを行う。また、散乱体の照射位置を微小に変化させた場合の復号画像の変化を観測するとともに、ランダムパターンの多重化についても検討し、異なる照射位置に別の画像を分散記録した画像の復元についても検討する。 それ以降の年度では、それまで活用されていなかった光の位相を含めた画像の分散法について研究を進める予定である。画像のランダム化に光の位相を取り入れることにより、画像の透過率を下げるだけでなく、上げることも可能となり、復号画像の画質が各段に向上することが期待できる。光の位相を活用する上で課題となることは、散乱体からのスペックルパターンから、散乱体の位相分布を推定することである。そのために、位相回復のためのアルゴリズムの適用可能性について十分検討する必要がある。そこで、散乱体モデルを用いた位相回復アルゴリズムのシミュレーションを行い、位相復元の可能性について検証を行う。位相回復の可能性を示すことができれば、その情報をもとに秘密画像をホログラフィックに分散記録し、秘密の対攻撃性や鮮明な画像の復元などの検証を行う。また、波長の多重化により、カラー画像の分散記録、再生についても検討の余地がある。本研究を推進するために、今後も科学研究費補助金の申請を継続的に行っていく。
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