研究課題/領域番号 |
26540057
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
前田 忠彦 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (40351324)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体検知 / バイオメトリックス / 指紋認証 / 偽装物 / 人体等価ファントム / CSRR BPF / 相対テンプレート / 類似度 |
研究実績の概要 |
生体検知法の基準指定義手法として絶対テンプレート法に加えて相対テンプレート法を提案し、それぞれの基本的な検知特性をシミュレーションと実験で明らかにした.特に生体検知センサを構成するCSRR BPF (Complementary Split Ring Resonator Band Pass Filter) の設計周波数に関して2種のフィルタ (6 GHzと10 GHz) の生体検知特性を総合的に評価した.また,個人差に起因する測定ばらつきとして押付力と人体指の大きさに注目した評価を行い,フィルタの高周波化に伴う測定ばらつき低減効果について定量的に明らかにした.
さらに実用化に向け、実環境下での検知精度劣化要因についても評価を進めた.特に人体のコンディションが生体検知に与える影響が懸念されたため,水に対して重量比1 %の塩化ナトリウムを加えた液体を疑似汗として用い実験人体指の発汗時を想定した実験を行った.その結果,乾いた人体指を用いた実験に対して疑似汗に濡らした人体指を用いた生体検知特性の差異は小さく,人体指の発汗が提案センサに大きな影響を及ぼさないことを確認した.
また,これまでに指紋偽装に用いられた材料を含む複数の偽装物に対する生体検知特性を分析するためにFRR (False Rejection Rate) およびFAR (False Acceptance Rate) による評価を行い,偽装物 (天然ゴム,シリコーンゴム,およびウレタンゴム) に対する生体検知特性を分析した.その結果,これらの偽装物の判定平面での分布領域は人体指の分布領域と完全に分離されることが明らかになった.このため、さらに生体検知の困難な偽装物として人体の皮膚を模擬した電気定数を持つ偽装物による攻撃に対する弁別能力を判定するため,絶対テンプレート法に注目した検知特性評価を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
センサ構造の最適化と検知特性の評価:昨年度までの研究成果からCSRR BPFを用いた生体検知用平面型センサの構造パラメータに対する設計指針を明らかにした.また,報告されている複数の偽装物を装着した偽装指に対する提案センサの生体検知特性を評価することで高周波化により小型化を図った10 GHzセンサが偽装物を良好に弁別可能であることを示した.さらに生体検知が最も困難と想定されるグミシートに対する実験的評価を複数被験者に対して進めた.生体検知評価特性は,FRR (FAR = 0 %) が3.13 %,FAR (FRR = 0 %) が0 % となり,皮膚ファントムを偽装物として想定した生体検知実験においても,10 GHz CSRR BPF による有効性と優位性を実験的に確認した.
電磁波応答シグナチャの相関分析:相対テンプレート法適用に向けた電磁波応答シグナチャの相関分析として,同一人物手部の複数ポイントに対するフィルタ応答特性を取得し評価指数に対する影響の分析を進めた.これに関連して,指紋認証システムへの指紋登録時に当該指の電磁波応答シグナチャを同時取得し指紋認証データベースに組み合わせ統合記録する方式を提案し,提案方式の基本検知特性を評価した.
生体検知用CSRR BPFセンサの高感度化:生体検知センサの検知感度向上のためと次年度の指紋センサとの一体化のための基礎検討として従来のフィルタ構造とは異なる新しいフィルタ構成としてマイクロストリップラインの線路側に構成する構造の検討を進め,提案構造を採用したセンサによる偽装物の検知特性をシミュレーションと実験により明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
評価指数の検討:昨年度は評価指数として類似度と平均差の2つの評価指数を適用し絶対テンプレート法および相対テンプレート法の生体検知特性評価を進めた.今年度は誤検知のさらなる低減を図るため,測定上の誤差要因の影響を受けにくい評価指数の導出を進める.特に誤検知が発生する個別の事例を多角的に分析し,評価指数算出過程で周波数特性に重みを与える処理アルゴリズムの最適化を進め,さらに複合評価指数に組み合わせることで誤検知の低減化を図る.
多面配置3次元コンフォーマルセンサ開発および3次元生体検知方式の評価:人体指とセンサの接触面均一化と指変形の軽減を目的とした3次元コンフォーマル型センサの開発を進める.このためにはFDTD法によるシミュレーションを活用するが,3次元化に伴いセルサイズの縮小化が必要となるため電磁界計算用計算資源の増力を進め,センサ湾曲の曲率を考慮した電磁界シミュレーションの実施環境を整備し,解析・評価作業の高精度化と時間短縮を図る.
指紋認証技術との統合化に関する研究:生体検知技術は指紋認証装技術と併用する必要があり指紋認証装置と生体認証用センサの組み合わせ技術が重要な研究要素である.このため光透過型生体検知センサの開発に注力する。特にITO膜などの光通過型の導電性素材の電気定数を検討し,これをCSRR BPFの構成材料として使用するための条件の洗い出しを行う.この結果から構造の最適化による光透過型CSRR BPFの設計を進め,偽装物検知特性について評価を実施する.さらに.指紋読み取りセンサとの一体化を図るための具体的方式と構造の検討を進める.特に,生体検知センサの近傍に配置される指紋センサおよび固定部材の高周波的な影響についてシミュレーションを進め.実用化に向けた一体化センサの基本構造を明らかにしてゆく.
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次年度使用額が生じた理由 |
測定結果の信頼性担保のため保守用設備として高安定同軸ケーブルを導入予定であったが,当面の評価には研究室保有の現用同軸ケーブルで測定が可能であることが実験データの分析結果から判断された.一方,研究成果の早期実用化のためには指紋認証センサとの一体化に向けた研究推進が重要であり,次年度の当該研究分野への予算注力のため昨年度の高安定同軸ケーブル導入を見送った.
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次年度使用額の使用計画 |
指紋センサとの一体化を図るための光透過型生体検知センサの開発につなげるための試作費用に充当する予定.特にガラス基板に試作予定の光透過型センサの試作関連費用として使用する予定.これに加えて偽装物の試作のためには,損失性媒質の電気特性の測定が必要であり,このための同軸型プローブの校正用キットおよび接触部分の消耗部品に使用する.また計算環境の増力のための増設メモリなどの電子部品として使用する.
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