本研究では,認知症の行動・心理症状(BPSD)を緩和することを目的に,発話に含まれる「感情的プロソディ」をリアルタイムに変更して発話者本人にフィードバックするシステムの開発を目指した.前年度は,発話中の音声から音高を推定し変換するとともに,音量を検知するシステムを開発した.本年度は,システムを改良し,健常の大学生を協力者とする実験を行った. システムは,オーディオデータから音高の値と音量の値を抽出する.音高全体を変換するアルゴリズム,音量全体を変換するアルゴリズム,そして周波数ごとに音量を変換するアルゴリズムの3種類をベースに,変換直前の音高や音量との差異を変数とし,24種類のアルゴリズムを提案し,リアルタイムに音声を変換した. 実験協力者は,エッセイを10回朗読し,そのうちの8回はシステムにより音声が変換された.1回読むごとに,24の形容詞により自分の感情のレベルを4段階で示した. 評価の結果をもとに,多重比較を行ったところ,8つの形容詞(悲観的な,陽気な,気分のよい,はつらつとした,怒った,平静な,のんびりした,ゆったりした)について有意な差異がみられた.この結果から,変換された音声を聞いた後はあまり快くないことがわかった.ここから,システムにより声を変換されたことが,話者に明らかにわかりすぎるといえる.我々は,話者が自分の声を変換されたことに気が付かなくても,自分に生理的反応が起きていると誤認識して,感情が起きると考える.よって,話者が変換されたことに気づきにくい手法への改良が必要である.また,平静な,のんびりした,ゆったりした感情に誘導するには,周波数ごとに音量を変換する方法の方が,全体の音高を変換する方法よりも有用であることがわかった.
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