研究課題/領域番号 |
26540073
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
渡辺 正孝 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, シニア研究員 (50092383)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 認知科学 / デフォルト脳部位 / 実行系脳部位 / 遅延反応 / 競争的シューティングゲーム / ローカルフィールドポテンシャル / マイクロダイアリシス |
研究実績の概要 |
サルに2種類の課題を訓練し、サルが課題を行っているときと、何もしていない安静時において、課題遂行時に活動性が高い実行系脳部位と、安静時に活動性が高いデフォルト脳部位の両方でローカル・フィールドポテンシャル(LFP)の記録・分析と、マイクロダイアリシス法による神経伝達物質の動態を調べる研究を行っている。
26年度は2頭のサルに実行系に負荷の大きい認知課題である「遅延反応課題」と、相手との関係で課題を行うことを要求される社会性課題である「競争的シューティングゲーム課題」の訓練を行った。前者の課題は、左右ランダムに呈示される空間的手がかりを憶えておき、それに基づいて反応すると報酬が得られるものである。後者の課題は、2頭のサルがお互いに弾を打ち合い、先に相手の陣地に打ち込む(相手に勝つ)ことにより報酬が得られるものである。ここでは、先に弾を当てたサルには報酬があるが、負けたサルには報酬はないことから、サルは相手のサルより早く正確に当てるように努力する。訓練が完成したサルには手術をし、実行系部位とデフォルト部位(申請者がPET実験で得た結果に基づく)の代表的な部位に記録用電極を慢性的に埋め込んだ。埋め込んだ部位は、実行系部位としては前頭連合野外側部であり、デフォルト部位としては前頭連合野内側部、前帯状皮質、後帯状皮質、楔前部である。またヒトではデフォルト部位であるが、サルのPET研究ではデフォルト活動はみられず、むしろ実行系に属していた下頭頂皮質にも電極を挿入した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度はサルに2種類の課題の訓練をした後、課題遂行時に活動性が高い実行系脳部位と、安静時に活動性が高いデフォルト脳部位の両方に電極を埋め、サルがそれらの課題を行っているときと安静にしているときの脳活動調べることを計画していた。2頭のサルにはおおむね予定通り課題の訓練を行うことができ、1頭のサルには電極を埋める手術を行うところまで実験を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
手術からの回復後、電極を埋めたサルが課題を行っているときと、課題を行っていない安静時の両方でローカルフィールドポテンシャル(LFP)記録を行う。実験では特にシータ(θ:4-7Hz)とガンマ(γ:40Hz以上)帯域の波に注目する。どちらも認知機能に関わることが示されている。これらの波がどのような課題でどのような脳部位で見られるのか、そして同じ波が見られる部位間でLFPに相関がみられるのか、を詳しく分析する。特にサルの競争の有無と社会的条件(相手がコンピューターかサルか)によりデフォルト脳部位の活動がどのように異なるのかに焦点をあてて調べる。この実験は連携研究者の児玉亨と小島崇との協力のもとに行う。
記録実験が終わった後は改めてマイクロダイアリシス実験用の手術を行う。そこでは、実行系脳部位とデフォルト脳部位の両方にマイクロダイアリシス用のプローブを植え込む。プローブの先端は半透性の膜になっており、プローブを通して灌流液を流し続けると、膜の特性で濃度の濃い脳内物質が少しずつ回収される。それをサルがそれぞれの課題遂行時、あるいは安静時ごとに分けて回収する。回収したサンプルは液体クロマトグラフィー、電気化学検出器を用いて分析し、どのような神経伝達物質が安静時とそれぞれの課題遂行に関係してどのような変化を示すのか明らかにする。特に注目するのは認知活動に関わりが大きいことが知られているドーパミンとグルタミン酸である。この実験は連携研究者の児玉亨と小島崇との協力のもとに行う。得られた成果は学会発表を行うとともに、専門誌に論文発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はサルの課題訓練に続いて脳活動の記録を予定していたが、そこまで実験が進まなかったため、脳活動の記録のための電極の購入、分析プログラムの作成に予定していた費用の支出がなかったため予定額を次年度に繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、2つの課題を行っているときと、安静時の両方の事態での脳活動を記録するための電極の購入と分析プログラムの作成に経費を支出する。また、電気活動の記録実験終了後は脳内神経伝達物質の動態を調べるマイクロダイアリス実験を行うが、これに必要なプローブには数十万円の経費が必要となる。さらに成果発表のために国内、国外の学会に参加するために研究費を使用する。
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